羽生善治王座に豊島将之七段が挑む第62期王座戦第1局は、
振り駒で先手になった羽生王座が豊島七段を破り先勝しました。
対局開始とニコニコ生放送の開始時間が9時、大盤解説が13時からでしたが、
午前中から異様な対局になりました。
両者とてつもないハイペースで指し続け、
11時くらいの段階では日曜日のNHK杯の11時くらいの局面になっていて、
結局午前中だけで89手も進む異様なペースで対局が進みました。
89手目に羽生王座から新手を放ち、そこで豊島七段が考えて昼食休憩になりました。
ニコニコ生放送では13時から解説が真田圭一七段、
聞き手が藤田綾女流初段で大盤解説がスタートしました。
聞き手が藤田綾女流初段で大盤解説がスタートしました。
真田七段曰く、豊島七段はタイトル戦が2回目だが、
最初のタイトル戦は振り飛車党の久保九段だったので、
前回とは違った楽しみのあるタイトル戦なのではとのこと。
初手から解説になりましたが、
最初に後手の豊島七段に急戦矢倉にするか持久戦にするかの選択肢があって持久戦、
次に羽生王座にどんな攻撃陣形をとるのかという選択肢があって、
▲4六銀▲3七桂戦法を選択しました。
真田七段「もうちょっと気の利いた名前がないかな、符号を言ってるだけだから」
現局面まで進んでからは、
ちょっとした手順の前後でその後の展開が大幅に変わってしまう、
という変化をじゃんじゃん解説していました。
羽生王座から手を変えましたが豊島七段も当然研究済みのはずと真田七段。
90手目の局面での視聴者アンケートは、
羽生王座24.6%、豊島七段36.4%、ニャンとも言えない39.0%と、
羽生補正を物ともしない豊島補正が見られました。電王戦パワーなのか。
真田七段は後手で相手に動いてくださいというタイプだそうです。
質問メール
棋風という言葉を耳にするが、自分の棋風を動物に例えると何ですか?
真田七段
自分から手を出さないので動物で言うと何になるのかな。
多少パンチを入れられても倒れないぞという感じの動物だと何かなあ。
打たれても倒れない系の。何だろう。
藤田女流
私は攻めるのが好きなので、一撃を入れる系は何ですかね。
サニキ
ライオン?ライオンは2分くらいしか追いかけられないらしいよ。
攻め好きと言うのは基本ライオン系じゃないかな。
加藤一二三九段がうな重ではなくエビフライ定食を頼んだが、
その時の対局相手は真田七段だった。何かありましたか。
真田七段
何を頼んだのかはまったく気づかなかった。
自分が対局じゃない方が僕も注目していたと思う。
ただし感想戦では加藤先生は上機嫌だった。
先生はすごく一生懸命な時とやだという時とムラがある。
僕は相手の戦法を受けて立つところがあるので、
加藤先生は感想戦を結構一生懸命やってくれる。
横歩取りとかは多分感想戦やってくれない。
ここで羽生王座が飛車を取り、真田七段
「切りあって終わりという局面から遠ざかった。
中盤の終わりから終盤の入り口あたりに戻った感じ」
リラックス方法は何ですか。
だいたい対局2日3日前くらいからパターンがある。
理想はマッサージとかサウナとかに入っておきたいが、僕は映画を見る感じ。
大阪の対局だと前日に大阪入りして映画を見るときもある。
最近はルーシーも見た。
そこでコメントに藤田女流はホラーが好きと書かれ、
昔バタリアンとか、あとゾンビ系も見る。
藤田女流はゾンビ系にすごいはしゃいでいました。多分大好きなはず。
最近はムカデ人間を見たらしい。
勝負飯というのはあるか。
昼麺類で夜ご飯ものと決まっている。
持ち時間に合わせて、長いときは前の日の夜にもしっかり食べる。
3時間以下ならそこまでじゃないような。重め軽めという基準で考える。
ここで福崎九段からティロフォン。
藤田女流「先ほど検分の写真で」
福崎九段「ちゃんと仕事してるでしょー?」
研究の将棋なのでほんとにお互い真っ向勝負。
ホテルは関西の棋士、女流棋士もたくさん来ている。
途中で寝てしまうほど熱心にやってる。
将棋連盟からも近いし今の若手は熱心な方が多いから頼もしい。
昔は一人でやってたから我々も楽しい時代になりましたね。
奨励会のこも来てるし女流もきてるし香川王将もきてるしそうそうたるメンバー。
お二方真面目に楽しく頑張ってください。
福崎九段はコメントでも面白いと絶賛でした。
言い方も面白いんですがなかなか文章では書けないっす。
今の将棋界はたくさんの親子、夫婦がいますが、
一緒に解説しているのはみたことありません。
真田先生が夫婦で解説しないのはなぜですか。
だめってことはまったくない。やったこともある。女流名人戦とかやった。
子供が産まれてまだ小さいので、夫婦で空けるのは難しいから今は夫婦でやってない。
及川くんと上田さんも今度やるし、嫌ってことはないと思う。
子供が大きくなったら、今までも解説してたのであると思う。
その後の解説ではもう止まらない真田七段。
ずーっと大盤を使って駒と口と頭を動かしまくってました。
後手玉が安定したので、駒の配置の意味を切り替えて、
局面を切り替えてみるための時間がいる。
先手が攻めるにしても、
後手玉に駒を近づけていくのか、飛車を攻めつつ遠巻きに行くのか、
全体のバランスを捉えてどの迫り方が有効なのか手を選ばないといけない。
後手が一番激しく攻め合いに来た時の速度とかも見ないと。
なのでここからは指し手がスローペースになる。
羽生さんの場合は、
相手がねじりあいになったときどういう手を好むのかというのを見てくるので、
第2局以降に影響がある。
初戦は豊島さんは勝っておきたい。
豊島さんは勝っても油断してはいけない。
3局目4局目あたりになると羽生さんはまったく別人みたいになる。
相手の癖をつかんでしまうから。
後になればなるほど相手の傾向を掴んで、将棋の内容もどんどんよくなる。
昔大山先生もそうだったらしく、番勝負で1局目は負けるがその後4連勝ということがある。
もう分かったとばかりに5局目とかになると圧勝するのがパターンだった。
番勝負の最初にリードしておくに越したことはなく、ここからの内容は非常に重要。
どちらが優勢かアンケート
羽生王座39.6%、豊島七段25.4%、ニャンとも34.9%。
羽生王座が攻めっぱなしの豊島七段が受けっぱなしなので、
豊島補正が消えてしまったのかもしれない。
この後は真田七段の、時には羽生研究家かとも思えるような解説で独壇場でした。
真田七段
羽生さんが今タイトル戦真っ最中の王位戦の2日制と、
王座戦の1日で5時間の対局は相当違うので、羽生さんの将棋の作りも変わる。
名人戦では封印していた横歩取りを棋聖戦では解禁するなど、
持ち時間によって戦型から変えてくる。
長考する豊島七段についても、
この局面は残り時間が1時間あれば乗り切れるくらいなので、
何時間使ってもここで主導権を握れるかどうかが問題と解説。
豊島七段は15:47分くらいにようやくおやつを食べ始める。
真田七段「しばらく指す気ないぞってことですね」
その後段位の免状の話に。
谷川十七世名人、森内十八世名人、
羽生十九世名人の名前が並んだ豪華な免状になっているのでぜひとのこと。
永世名人特製組湯呑みキャンペーンもやってるらしい。
真田七段がプロ棋士の免許状(アマは免状)をご開帳。
名前が将棋連盟会長のだけというのが違うみたい。
和服で木の盤というのは、
江戸時代からやってきたことを伝統で守り続けているという意味がある。
免状も同じく江戸時代の名人が発行したものなので、
和紙を使って手書きでやって伝統文化を形にしているという意味がある。
ここで次の一手アンケート。
真田七段によると、受けの手は一長一短があり、
純粋にプラスだけという手を見つけにくい状況で、
展開によってはマイナスになってしまうとのこと。
攻める手は意味がはっきりしているので、
勝てるかはどうかは分からないがプラスではある。
と解説している間に豊島七段は△9六歩と端から攻め合い。
真田七段「これは第一感で浮かぶ手ではなく、
良くも悪くも羽生王座の▲4一飛と豊島七段の△9六歩の2手は両者の個性がでた」
その後の検討で
「△5九銀不成では勝てないから消去法で出た手なのかもしれない。
先の先まで読んでこの手でいいということであれば、それはものすごい読みの質と量」
また、この手は理論じゃないので羽生さんもそんなに考えないですよと言い、
その通り羽生さんはさほど考えずに▲同歩。
豊島七段もさほど考えずに△5九銀不成。
端歩は終盤に向けて、先手玉が詰む変化をたくさん仕込んだということらしい。
羽生さんが切り合いにいくと見せて、
局面を落ち着かせるみたいな展開になれば羽生さんが優勢、
切り合いならもうどっちかが倒れているという形勢判断になる。
先手の6六の桂馬がいなくなって、先手玉がそちらに逃げる展開になれば羽生さんがいい。
真田七段は羽生王座が切り合わない展開にして優勢になるのではという見解。
ただし豊島七段は明確に切りに行った。きちんと受ける気はさらさらない。
1歩渡すと、その歩がと金になるので歩でも渡すのは大きい。
豊島七段は過激に行ったので、
羽生さんはお互いの詰む詰まないをはっきり読まなければならなくなった。
ここで羽生王座は66の桂馬をどかしつつ飛車取りに当てる▲7四桂。
サニキは羽生研究家なのか。
▲7四桂はすぐに指されたので、この早さは気になる、
他のたくさんの手をどういう理由でこんな短時間で切り捨てたのだろうとのこと。
豊島七段がどこに飛車を逃げるか、9筋だと攻めに使うことになるし、
3筋は守りに使うことになるが、
どちらにしてもそんなに短時間で読みきれるわけではないので、
時間があるのにあっさり指したのが不気味。羽生王座の自信を感じるとのこと。
ここで席を外す豊島七段。流石に意外な手だったか。
真田七段
「手が広い局面からの、
▲4一飛から▲7四桂という関連性がなさそうな手順を描けるのは才能」
豊島七段は長考の末攻撃的な▲9二飛を選択。
羽生王座の▲4一飛から▲7四桂は読みに無い手だったはずなので、
豊島七段が細い正解の糸を手繰り寄せなければいけない正念場。
未知の局面になってからバランスを崩さないというのが将棋の強さ。
羽生王座は豊島七段の研究にバランスを崩さずについていっている。
豊島七段が残り1時間を切ったところで夕食休憩に。
休憩明けに豊島七段は切り合いを挑む△6六歩。
しばらく手の解説をした後に真田七段
「自信もってやればすごい手ですよこれは」
羽生王座の攻めを呼び込んで勝とうという手で、
針の穴ほどの漏れもあってはならないとのこと。
ここでティロフォン。香川女流王将から。
朝から検討とタイトル戦の空気を勉強しにきたとのこと。
谷川会長、淡路九段を始めたくさんの棋士が検討しているらしい。
若手は△7一歩が有力ではないかと思っていてその先を検討していた。
控え室は先手持ち。
ここで夕食の話題に。
真田七段曰く対局中の食べ物は本当に味がわからないらしい。
さらに解説を進めると、
△6六歩は切り合いの他に後手玉の入玉を助ける意味もあることが判明。
しかしその後検討を進めると、重要な局面で先手玉が詰まないことが分かり、
豊島七段は自信があるのではなくて修正案、頑張りに行った手と真田七段。
豊島七段が中盤に指した△9六歩と▲同歩が入っているせいで、
先手玉が打ち歩詰めの順に逃れることが分かり、
△9六歩の後に豊島七段に予定変更があったのではとのこと。
この後はっきりと羽生王座に形勢が傾きました。
真田七段
「先手に一手余裕があって、相手の王様を寄せればいいというのは、
将棋をやってて一番楽しい時。
だいぶ羽生さんの顔に余裕が出てきた。将棋やってて一番楽しい時間だから。
後手も一手間違えたらわかりませんよという体勢だが、相手に楽しまれちゃうんですよ。
今日1日頑張った甲斐があったなあという時間帯」
羽生さんが席を外しして真田七段
「測ったように自分が勝ちになった時に席を立つのが羽生流、って藤井さんが言ってた。
棋士は自分は癖がないと思っているものなので、羽生さんも気づいていないと思う。
将棋はお互い苦しいという局面があるので、
苦しいと相手に悟られると相手に勇気を与えてしまうから、
苦しい思っていることは悟られないようにしないといけない。
優勢の場合は悟られても関係ない。最善手を指し続ければいいから」
まとめに入る真田七段
「実戦心理や勝負のあやというのが良く出た将棋で、今後も同じ局面が出てくると思う。
羽生さんはどこまで行っても局面のバランスを保っていることが多い。
この対局もこの一手で豊島さんを倒したと言うよりは、
上手くついていって結果端歩を逆用したような形になって勝つことになった。
豊島さんも伸び代をものすごく感じる。
読みの絶対量が豊富で、今日も自分から動いて倒れてしまっただけなので、
この辺のバランスが取れるようになったら羽生さんにとっても相当難敵になるはず。
大きな対局ばかりが続くと、体力はきついが頭は冴えてきて、
そういう状態にならないと入らないスイッチが入るんだ、って中原先生が言ってた」
豊島七段は何と角のただ捨てに。
投了図を美しくということではなく、若手らしく泥臭く、
少しでも勝てる可能性のある手を指そう、
自分から負ける手は指したくない、という意図なのではとのこと。
そしてここでも席を外す羽生王座。羽生流ですな。
真田七段「こういうのは戻ってきて比較的すっと指しますよ」
羽生王座は戻ってきたら予言通りにすっと▲3三金。
羽生研究家もここまでくると凄すぎます。
豊島七段は周囲をきょろきょろしたりぼーっとしたり水を飲んだり、
盤上没頭ではなく心の整理の時間帯に。
10分くらいの残念棒の後に豊島七段の投了となりました。
真田七段
「本当に密度の濃い将棋。
研究局面から羽生さんが新手を出して、
この一局でこの局面の奥の深さを感じさせてくれる、
またプロの対局にも出てくる予感を感じさせる将棋だった。
次は豊島七段の先手なので矢倉か角換わり、
豊島さんが角換わりを目指して羽生さんが受けて立つ展開になると予想します」
今日は最後まで真田七段が解説しっぱなしで、
とても将棋の勉強になった気がする1日でした。
女流棋士ですと伊奈川愛菓女流初段の羽生ファンっぷりが有名ですが、
男性棋士筆頭は真田七段かもしれません。
この二人で羽生さんのタイトル戦の解説をするとどうなるんだろう、
という怖いもの見たさも出ました。
指し手やら癖やら席を立つタイミングやら、おやつのメニューや食べるタイミングなど、
いろいろな羽生さんの行動を予言、的中しまくる狂気解説になるのかもしれない。
今日の将棋は関西の若手棋士の間で研究されていた局面になったようで、
現地に行っていた大石直嗣六段が豊島七段との研究会で経験したことがあるそうです。
当然後手良しという結論だったから豊島七段がぶつけたわけで、
それを羽生王座が跳ね返したという格好になります。
羽生さんは将棋の強さを、
未知の局面で最善に近い手を指し続けることができる力と表現していますが、
真田七段の、羽生王座は豊島七段の研究にバランスを崩さずについていっている、
という言葉もそれを感じさせてくれるものでした。
羽生王座は今年度に入ってから、タイトル戦に出ずっぱりなのに勝率1位、
写真は王座戦中継Blogより
将棋世界 2014年 10月号
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