将棋の駒の動き方がわからなくても、
勝負の世界に生きるプロ棋士の魅力がわかる、お勧めの一冊です。
著者について
著者の梅田望夫さんはアメリカのシリコンバレーでIT事業に携わっています。
こういうとエンジニアをイメージされると思いますが、
梅田さんはコンサルタントであり、職人とは少し距離を置いた方です。
本のタイトルについて
タイトルは梅田さんの釣りといっていいと思います。
このタイトルだと、
羽生さんをひたすら賛美しているような内容に思われてしまいますが、
梅田さんの望みは
もっとたくさんの人が将棋の棋士に興味を持つようになって欲しいということです。
ただし羽生さんがダントツの実績を残しているのも事実です。
本書は羽生さんと、
タイトルを争った相手の棋士に話しを聞くという形で進行していきます。
今の将棋界について
将棋というと伝統芸能であり、古臭いイメージがありますが、
盤上の技術の進歩がすさまじい速さで進んでいます。
棋士同士が研究会をしていて、さまざまなアイデアが出ては試されています。
また、実戦で現れた新手は即座にインターネットを通して広まり、
明日には研究会で並べられて対策をみんなで考えているといった状況です。
当然作戦や新手に著作権は無いので、
秘密にしておいたアイデアが成功したとしても、
手に入れられるのは目の前の1勝だけという世界です。
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目次
はじめに―残酷な問いを胸に
第一章 大局観と棋風
・リアルタイム観戦記「割れる大局観」第80期棋聖戦第一局
・対話編「棋譜を見れば木村さんが指したものとすぐわかる」(羽生善治)
第二章 コンピュータ将棋の遥か上をゆく
・リアルタイム観戦記「訪れるか将棋界『X-day』」第80期棋聖戦第五局
・対話編「互角で終盤に行ったら、人間は厳しいです」(勝又清和)
第三章 若者に立ちはだかる第一人者
・観戦エッセイ「『心の在りよう』の差」第57期王座戦第二局
・対話編「あれ、むかつきますよ、勝ってんのに」(山崎隆之)
第四章 研究競争のリアリティ
・観戦エッセイ「研究の功罪」第68期名人戦第二局
・対話編「僕たちには、頼りないところがあるのかもしれないな」(行方尚史)
第五章 現代将棋における後手の本質
・リアルタイム観戦記「2手目8四歩問題」第81期棋聖戦第一局
・対話編「優れた調理人は一人厨房でこつこつ研究する」(深浦康市)
あとがき―誰にも最初はある
はじめに―残酷な問いを胸に
第一章 大局観と棋風
・リアルタイム観戦記「割れる大局観」第80期棋聖戦第一局
・対話編「棋譜を見れば木村さんが指したものとすぐわかる」(羽生善治)
第二章 コンピュータ将棋の遥か上をゆく
・リアルタイム観戦記「訪れるか将棋界『X-day』」第80期棋聖戦第五局
・対話編「互角で終盤に行ったら、人間は厳しいです」(勝又清和)
第三章 若者に立ちはだかる第一人者
・観戦エッセイ「『心の在りよう』の差」第57期王座戦第二局
・対話編「あれ、むかつきますよ、勝ってんのに」(山崎隆之)
第四章 研究競争のリアリティ
・観戦エッセイ「研究の功罪」第68期名人戦第二局
・対話編「僕たちには、頼りないところがあるのかもしれないな」(行方尚史)
第五章 現代将棋における後手の本質
・リアルタイム観戦記「2手目8四歩問題」第81期棋聖戦第一局
・対話編「優れた調理人は一人厨房でこつこつ研究する」(深浦康市)
あとがき―誰にも最初はある
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将棋の本というと棋譜や図面が載っていて、
将棋が強くないと楽しめないというイメージを持つ方も多いと思います。
この本もタイトル戦の棋譜を題材に観戦記が書かれていますが、
5級向け、初段向け、5段向けと分けて解説されている部分もあり、
様々な棋力の読者に楽しんでもらえるような工夫がされています。
しかし、本書の最大の特徴は対話編にあります。
著者が棋士に話を聞くという形式で進んでいきますが、
棋譜の部分はすっとばして読んでも十分楽しめます。
対局後の羽生さんの態度についての山崎七段の言葉
「羽生さん、怒ってましたよね。
せっかく楽しくなってきたところなのになんだよって感じで。
投げんなよってことなんでしょうけど。
あれ、むかつきますよ、勝ってんのに。」
せっかく楽しくなってきたところなのになんだよって感じで。
投げんなよってことなんでしょうけど。
あれ、むかつきますよ、勝ってんのに。」
名人戦の対局が終わった日の深夜、
著者が行方八段、久保九段、対局者であった三浦八段の
深夜の研究会に誘われたときの三浦八段の言葉
「封じ手は▲3九歩か▲3九金を予想していました。
それで昨日の晩は特に▲3九金からの変化をずっと読んでいて、
もし封じ手が▲3九金ならこちらが勝てそうだと思って、安心して、
幸せな気持ちで眠ったんですよ」
それで昨日の晩は特に▲3九金からの変化をずっと読んでいて、
もし封じ手が▲3九金ならこちらが勝てそうだと思って、安心して、
幸せな気持ちで眠ったんですよ」
深夜のお酒の席上でのある棋士の言葉
「深浦さん、王位ひとつならいいけど、タイトルふたつ以上は嫌だなあ」
「深浦さんは羽生信者ですよ。でも、そういうふうを見せながら、
その羽生に勝った俺は偉いんだ、と自己主張している」
「深浦さんは羽生信者ですよ。でも、そういうふうを見せながら、
その羽生に勝った俺は偉いんだ、と自己主張している」
私は将棋ファン、棋士ファンとして、
こういった言葉を聞きだせる梅田さんが非常にうらやましいです。
棋士との信頼関係が非常にうまく築かれているように思います。
将棋の観戦記者と棋士も信頼関係があると思いますが、
観戦記者との違いは梅田さんの立ち位置にあると思います。
通常の観戦記の場合、指し手についての質問に話がいきがちで、
棋士の言葉も符号が多くなってしまいます。
その結果、盤上の真理に話が進んでしまい、初心者お断りの空気が漂います。
ところが、梅田さんは職業が観戦記者ではないにもかかわらず、
棋士と信頼関係を築いていて、また、棋力も初段くらいといったことから、
かなりミーハーな立ち位置で棋士から本音を引き出すことに成功しています。
そのため将棋の強くない人、指し手について書かれてもわからない人でも、
棋士の魅力が十分に伝わる本です。
観戦記者のうち何人が、山崎七段の
「あれ、むかつきますよ、勝ってんのに」
なんて言葉を引き出せますかねえ。
また、羽生さんが梅田さんに狂気を見せるシーンもありますが、
いったい何人が狂った羽生さんを見たことがありますかねえ。
私が観戦記者でこれを読んだらそれこそ嫉妬で発狂ものだ。