2014年FIFAワールドカップ、日本代表は皆様ご存知の通り、
グループリーグを2敗1分で敗退しました。
ニュースサイトやブログ、2ch、Twitter等々各所でいろいろな意見が出ていますが、
ここは将棋サイトで将棋は戦略ゲームですから、
戦略の階層からサッカーのことを書いていきたいと思います。
まず最初に戦略の階層は下記の7つに分かれています。
奥山真司著「世界を変えたいなら一度"武器"を捨ててしまおう」より
世界観(Vision):人生観、歴史観、地理感覚、心、ビジョンなど。
「日本とは何ものか、どんな役割があるのか」
↓
政策(Polocy):生き方、政治方針、意志、ポリシーなど。
「だから、こうしよう」
↓
大戦略(Grand Strategy):人間関係、兵站・資源配分、身体など。
「国家の資源をどう使うか」
↓
軍事戦略(Miritary Strategy):仕事の種類、戦争の勝ち方など。
「今ある軍の力でどう勝つのか」
↓
作戦(Operation):仕事の仕方、会戦の勝ち方など。
「いつどこで戦いをするのか」
↓
戦術(Tactics):ツールやテクの使い方、戦闘の勝ち方など。
「勝つためにどう戦うか」
↓
技術(Technology):ツールやテクの獲得、敵兵の殺し方など。
「戦闘に勝つためにどのような技術を使うか」
ワールドカップ前の記事で、ポゼッションサッカー、ロングカウンターサッカー、
ショートカウンターサッカーについて書きましたが、
これは勝つためにどう戦うかという戦略の階層で言えば下から2番目の戦術レベルの話、
どのサッカーをどういう状況で使い分けるかは軍事戦略レベルの話になります。
そしてワールドカップ初戦から、日本はポゼッションサッカーがしたいのか、
ショートカウンターサッカーがしたいのか、選手間でばらばらでした。
逆に例えば第2戦で戦ったギリシャは、1人退場して10人担った瞬間に、
この試合は引き分けでいいということになり、軍事戦略レベルで10人がまとまりました。
そして日本にきっちり引き分けて最終戦のコートジボワールに勝ち、
グループリーグを突破しました。
将棋には相手に手を渡す、という戦い方があり、
サッカーにもシュートで攻撃を終わらせる、という考え方があります。
例えば10人で守りきろうという相手にシュートで攻撃を終わらせ、
相手に攻撃のターンを渡すという行為は、
相手の軍事戦略の階層を揺さぶりに行っています。
相手の軍事戦略の階層を揺さぶりに行っています。
それに対して、例えばグランドを横に広く使ってパスを回すといった行為は、
守備ブロックを横に広げるような揺さぶりをかけるという戦術レベルの行為です。
守備ブロックを横に広げるような意図も感じられなかったのはきっと気のせい。
皆様もどんな人、あるいは選手がどの階層について語っているのかに着目すると、
ワールドカップに限らずどのスポーツ観戦でもより楽しめると思います。
さて日本がワールドカップでグループリーグを突破したのは、
岡田武史監督の2010年、トルシエ監督の2002年の2回です。
昨日の記事で岡田監督の深夜のひらめきを書きましたが、
岡田監督のMFを5人横に並べてブロックを作って守り、カウンターで点を取る、
という戦い方は、戦術レベルまで監督が指示を出したということです。
トルシエ監督にいたってはフラットスリーというツールの習得、
技術レベルまで口を出し、結果を残しました。
それに対して2006年のドイツ大会では、ジーコ監督が選手の自主性を重んじました。
しかし初戦のオーストラリア戦で、オーストラリアがパワープレーに来た時に、
選手間でブロックを作って守るロングカウンターサッカーか、
攻撃の機会をそもそも与えないようにするポゼッションサッカーかでプレーが分かれ、
大逆転負けを喫しています。
もちろん空中戦に弱いという技術レベルの問題もありますが、
背が低いからという理由だけで負けたわけではありません。
このように日本は軍事戦略レベルを選手に任せると失敗するんですね。
奥山真司著「世界を変えたいなら一度"武器"を捨ててしまおう」より
戦略学の世界ではジョークで、各国の軍隊の組織で最強の軍隊を作ったらどうなるか
というシミュレーションがあります。
兵隊と下士官は日本人にやらせて、
その上の大佐レベルまではドイツ人にやらせる。
そして、一番上の将軍はアメリカ人にやらせると世界最強の軍隊ができるという、
実際に冗談ともつかない話です。
日本人のサッカー選手がドイツのブンデスリーガで比較的活躍しているというのは、
決して偶然ではないと思います。
サッカー選手として試合に出るならば軍事戦略レベルまでの仕事をこなす必要があり、
その仕事ができるドイツ人に合わせることで日本人も輝ける、という構図が見えます。
スポニチ【オシム分析3】「日本らしいサッカー」の方向性は間違っていないより
日本人選手のすぐれた部分を生かした
「日本らしいサッカー」を進めるという方向性は間違っていない。
組織性や勤勉性、俊敏性、献身性など
日本の長所を生かしたスタイルはまだ完成していない。
これから伸びていく余地がまだまだある。
オシムさんが褒めている日本人の長所を戦略の階層に当てはめると、
長所は技術の階層ばかりでぽっかり穴が開いている階層が浮かんできます。
ただしこれはサッカー選手に限ったことではありません。
奥山真司著「世界を変えたいなら一度"武器"を捨ててしまおう」より
企業を「戦略の階層」に落とし込むと・・・
世界観(Vision):企業イメージ、存在意義など。
政策(Polocy):業界における社会的意義、社会貢献など。
大戦略(Grand Strategy):資金管理、システム管理など。
軍事戦略(Military Strategy):デザイン戦略、流通コントロールなど(手に取れないもの)。
作戦(Operation):カスタマーサービス、人事オペレーションなど。
戦術(Tactics):販売マーケティング、営業マーケティングなど。
技術(Technology):商品開発、コンテンツ開発(手に取れるもの)。
例えばこのブログはコンテンツですから技術の階層にあたります。
私のブログですとGoogleから来る人が一番多いのですが、
もちろんGoogleの中の人がこのコラムを書いているわけではありません。
Googleはもっと上の階層を支配しているんです。
Youtubeは動画サイトですが、Youtube社員が動画を作っているわけではありません。
Amazonは通販サイトですが、商品を作っているわけではありません。
iTunesは音楽を聴くことができますが、アップルが音楽を作っているわけではありません。
このように技術より上の階層で商売をする企業は、日本にはなかなかありません。
404 Blog Not Found「Rakutenization - 書評 - たかが英語!」より
楽天を楽天たらしめているものは、何か?
徹底した二番手戦略である。
1995年に海の向こうでamazon.comが産声をあげたかと思えば、
1997年には楽天市場を開設し、
2004年にライブドアが球団買収に名乗りをあえたら間髪入れずに名乗りを上げ、
AmazonがKindleをはじめたらKoboを買収し…
かっこよいとはいえない。Coolでない。不酷。ところがどっこい、楽天は生き残っている。
生き残っているどころか、成長している。成長しているし、顧客の支持も得ている。
英レディング大学のコリン・グレイ教授から戦略学を学んだ、
地政学・戦略学者の奥山真司さんは、
日本人も最下層の技術を捨てて上位の階層を学ぶべきだと述べていますが、
現実問題としてお金を稼がなければならない企業の中には上記の楽天のように、
技術の階層が得意なんだから他の階層はパクればいいじゃんという考え方もあります。
サッカー日本代表は今のところ、
技術より上の階層は監督がやる方が結果を出しています。
でもその路線で将来世界一まで行けるかというとそうではないでしょうし、
技術の階層は優れているというところは認められているのですから、
軍事戦略の階層まで仕事を出来るように選手を育てていく、
というところまで日本のサッカーは来ているように思います。
でもこの壁は結構厚いですよ。
世界を変えたいなら一度"武器"を捨ててしまおう
奥山真司著
¥1,512