棋士はカワイイ!

将棋と棋士の魅力を伝えたい!そんなブログです。 なんか難しそう、古くてださそう、そんな印象を吹っ飛ばす!
指すのではなく観戦ならば簡単で面白い!

書評?「名人に香車を引いた男―升田幸三自伝」

「この幸三、名人に香車を引いて勝ったら大阪に行く」
母が縫い物に使う三尺の物差しの裏にこう書置きをして、
数えで十五歳、満十三歳で家を飛び出した升田幸三実力制第四代名人の自伝です。



時代背景について

升田名人が生まれたのは1918年、第1次世界大戦が終わった年でした。
ここから第2次大戦が終わり、
升田名人(当時は八段)がGHQ呼び出されて大演説をするまでで、
本のページの3分の2を占めます。
1981年に升田名人が大山康晴の挑戦を退けた対局の棋譜と解説が最後で、
戦前からから戦後にかけての混乱期の様子が、
戦争の悲惨さを書こうといった色眼鏡を通すことなく生き生きと描かれています。
また、将棋界では関根金次郎十三世名人が三百年続いた一世名人制を廃止し、
実力によって名人を決める実力制名人戦が開始され、
1937年に関根十三世名人は名人位を退きました。
これにより誰にでも将棋の実力があれば名人になれる機会が与えられました。
さらに1951年から王将戦がタイトルとしてスタートし、
3勝リードするとリードされた方が駒を落とすという指し込み制が採用され、
升田少年が夢をかなえる道が整いました。

―――――――――――――――――――――――――――――――――
目次

わが最大の腕白事件/極道親父と優しかった母/剣豪の夢破れ将棋の道へ/
決意を物差しに残し家出/天ぷら屋に勤めてみたが/また文無しで広島を出奔/
木見八段宅にたどりつく/将棋どころか雑用ばかり/とうとう「初段」になった
<棋譜>第1番 初陣の譜

強くなって生意気ざかり
<棋譜>第2番 恩返しの譜

”大山いびり”伝説の真相/母の愛で死の床から帰る/
忘れえぬ恩人・坂田三吉/宿敵・木村名人との初対決
<棋譜>第3番 宿敵見参の譜

軍隊三年の空白の後に……
<棋譜>第4番 無念、逸機の譜

強運に恵まれて死地から生還/怨敵・木村との五番勝負
<棋譜>第5番 会心、圧勝の譜
<棋譜>第6番 怨敵三連破の譜

GHQ高官の度肝を抜く/悲憤忘られぬ高野山の決戦
<棋譜>第7番 痛恨、高野山の譜

名人を侮辱する者への怒り
<棋譜>第8番 駅馬車の譜

打倒木村に燃えて名人戦へ/「陣屋事件」の真相
<棋譜>第9番 指し込み第一号の譜

弟弟子・大山を差し込む
<棋譜>第10番 指し込み第二号の譜

二十四年の夢ここに成る
<棋譜>第11番 空前絶後の譜

名人位も獲得、三冠を独占
<棋譜>第12番 三冠達成の譜

将棋指しになってよかった
<棋譜>第13番 わが最高傑作の譜

あとがき

―――――――――――――――――――――――――――――――――

日本一の将棋指しになりたいと思った時に、
名人になりたいではなく名人に香車を落として勝ちたいと言ったところに、
升田名人の反骨精神が伺えます。
また、当時は関東と関西での格差が大きく、
例えば東京の六段は給料が百三十五円でしたが、
大阪の升田六段の給料は二十五円でした。
こんなことから升田名人、
ひいては関西の将棋界は東京の木村義男名人を宿敵とみなしていました。
打倒木村を掲げて名人という権威に挑み、
新手一生をかかげて定跡という権威に挑み、
名人を相手に香車を落として勝つという夢をかなえ、
三冠達成、名人防衛で自伝が終わるというところまで、
反骨精神がにじみ出ていると思います。
ところが打倒名人から離れ、普段の生活の描写になると、
戦前戦中とは思えないほど生き生きとした人々の生活が描かれています。

小林さんは大酒飲みで、飲むと気が大きくなり、友だちを連れてハシゴをする。
カネを持っとるうちは問題ないが、懐中が底をつくと、木見先生に使いを走らせ、
しりぬぐいをしてもらう。
当然ながら先生の奥さんは、小林さんを毛嫌いしておった。
ある日、例によって使いがやってきたんだが、よほど虫のいどころが悪かったのか、
奥さんが先生に取り次がず、玄関払いをくわせた。
しょうことなしに小林さん自身が出向いてき、奥さんと、カネ貸せ、貸さんの押し問答です。
ことわられるとほかに行く先がないから、小林さんもトコトンねばる。
そこへ先生が、廊下を踏み鳴らし、こわい顔して現れた。
「毎度つけあがりおって、けしからんやつじゃ。きょうはわしが灸をすえたるッ」
こういうなり居間に引っぱりこみ、ピシッとフスマを閉めてしまった。
さあ、それからが大騒ぎです。
パチンパチンとたたく音がするわ、物を投げる音がするわ。そのたびに
「悪かった、こらえてくれ」と小林さんが悲鳴をあげる。
私はちょうど庭掃除をしとりまして、なにが起こったかとガラス戸ごしにのぞいたんですが、
なんのことはない、先生は自分の手を叩いとる。
物を投げるにしても、てんで方向違いへほうっとる。
そうしながら自分のフトコロから財布をとりだして、小林さんのタモトにねじこんでおる。
やがて「待てッ」という先生の声を合図に、小林さんがころげるように逃げ出した。
これがまた芸がこまかくてね、玄関でゲタを片方だけ突っかけると、
勧進帳の弁慶が六方を踏むように、ケンケンしながら外へ消えちまった。
あまり二人の芝居がうまいんで、私はあきれたり感心したりだったが、
奥さんは知らぬがホトケです。
長い間の溜飲が下がったっちゅう顔で、ニコニコ笑っておりました。


この本は全文がこんな調子で、少年時代に大道詰め将棋で稼いだこと、
魚雷が飛んできたり爆弾が落ちてきたりする戦争体験、
戦後にGHQに呼び出され、
取った駒を自分の兵隊として使う日本の将棋は人道に反すると言うGHQ高官を相手に、
言いたい放題を言って将棋の文化を守ったこと、
木村名人を指し込んだこと、大山名人を指し込んだことなど、
事件だらけの半生を上記のような独特な口調で書かれています。
本に詳しくは書かれていませんが、この後ライシャワーさんと講演をしたり、
ケネディ大統領の弟であるロバート・ケネディ司法長官にお説教したりと、
この時GHQ相手に言ったことがどれだけインパクトがあったかが伺えます。
よくまあズケズケしゃべりまくったもんだと升田名人は述懐していますが、
ズケズケしゃべる映像も残っています。

MA☆SU☆DA


動画では運、勘、技、根と言っていますが、
本の中でも魚雷がきわどくそれたり、爆風で吹っ飛んでも傷を負わなかったり、
私には強運があったと思うと書いています。
そんな場所に行くことになったことを運が無いと思うか、
その後の体験から運がいいと思えるかのメンタルの差が、
最後に将棋指しになってよかったと思えるかどうかに繋がるのかもしれないと、
若輩ながら思いました。

書評?「勝負哲学」岡田武史、羽生善治著

サッカーで日本をW杯ベスト16に導いた岡田武史監督と将棋の羽生善治三冠の対談を、
1冊にまとめた本です。



本が書かれた時期について

この本が出版されたのは2011年10月です。
3月11日に東日本大震災にみまわれ、対談はそれよりも後に行われました。
岡田さんはまえがきで、
「今回の震災で亡くなられた方のご冥福をお祈りするとともに、
この本が被災された方の今日の一歩を踏み出す助けに成ればと心から願うばかりである。」
と述べています。
翌年の2012年に岡田さんは、
中国サッカー・スーパーリーグ杭州緑城足球倶楽部の監督になり、
羽生さんはタイトル2つを防衛後、
前年渡辺明竜王に奪われた王座のタイトルを奪取しています。

岡田さんが代表監督になったときの環境

本の中で岡田さんは、加茂監督の後任として代表の監督になった後、
自力での予選通過が消滅したときに、
マスコミにはボロクソに言われるし、
サポーターからじゃんじゃん脅迫電話がかかってくるし、
脅迫状もたくさんくるし、毒入りなんて書いてあるサツマイモが送られてくるし、
かなり大変だったと述べています。
最悪の時期には警察のパトカーが24時間家の周囲をパトロールして、
子供の学校への送り迎えも危ないからと車でしたそうです。
怖い世界だ。

羽生さんの環境

岡田さんのまえがきに、
「名人戦のさなか、それも連敗した後にもかかわらず、
彼はいやな顔ひとつみせず、いつもどおり飄々と答えてくれた。」
とありますから、
対談当時の羽生さんは名人、棋聖、王座の三冠だったと思われます。
本の中で羽生さんは
「子供相手に本気になるのはおとなげないという老成した感情を超えて、
いまと変わらない気力や緊張感をもって真剣勝負に徹することができるかどうか。」
が大きなテーマだと述べています。
羽生さんは対談の3ヵ月後くらいに、
17歳年下の広瀬章人王位(当時)とのタイトル戦がありました。
結果は4勝3敗で広瀬王位からタイトルを奪取しましたが、
確かに苦戦しているように見えますね。
翌年には18歳年下の中村太地六段と棋聖位のタイトル戦がありましたが、
こちらは3勝0敗のストレートで挑戦を退けています。

―――――――――――――――――――――――――――――――――
目次
まえがき―岡田武史

1章 勝負勘を研ぎ澄ます
理論を超えるもの、直感を支えるもの
・データなしでは勝てない、データだけでも勝てない
・W杯直前のシステム変更を決断させたひらめき
・努力の積み重ねが直感力を発達させる
・勝負の中の「偶然性」にどう対応するか
・直感を信用するために必要なこと

勝負どころを読む力
・危険なとき、苦しいときこそ勝負どき
・小さなミスほど試合の流れを大きく変える
・「じっとがまん」が状況を好転させる
・相手に「手を渡す」ことで勝機をつかむ
・相手の長所を消しながら自分の強みを出せ

全体を客観視できる「広い目」をもて
・戦況を第三者の視点でながめる中立の目
・トップアスリートに必要な「広い集中力」

2章 何が勝者と敗者を分けるのか
リスクテイクをためらうな
・選手の自主性と組織の一体感が両立した理想のチーム
・リスクから逃げるたびに、少しずつ、確実に弱くなる
・「死ぬまで勉強、一生チャレンジ」を体現していた老棋士
・新しさに鋭敏でないと最前線では競えない
・守るべきものと変えるべきものとのさじ加減

打たれ強さを養う
・重力でありながら揚力でもあるプレッシャー
・開き直りでしか背負えない「重圧」の底で目覚めたもの
・可能性に比例してプレッシャーも高まる
・「勝てるメンタル」に何が必要か
・心おきなく戦うために「ふつうの時間」を担保せよ

「勝てる人間」を育てる
・選択肢が多すぎる時代に「野生」の復権を
・「気づかせる」指導が選手の自主性を引き出した
・「絶対に譲れない一線」で本気が伝わる

3章 理想の勝利を追い求めて
集中力の深度を増す
・棋士の集中力の密度は並外れて高いか
・「深い集中」と「力まない集中」のふたつがある
・集中力の深海に交差する狂気と玲瓏の世界
・チーム全体が「ゾーン」に入った稀有の体験

闘争心を制御せよ
・執着心のわずかな不足が敗退につながった
・「制御された闘争心」こそが勝利に不可欠
・勝ち負けより「勝負の持つ深み」に出会いたい
・スポーツとしてのチェス、文化としての将棋
・大震災の悲劇の底から変化の火種を取り出そう
・すべて不確かな世界の中で頼れるものは何か

戦いに美学を求める
・隙のない戦い方が生み出す美しさ
・ずるがしこい戦い方は日本人の美学にそぐわない
・「負け」の中からこそ潤沢な教訓を拾い上げられる

あとがき―羽生善治
―――――――――――――――――――――――――――――――――

タイトルこそ勝負哲学ですが、対談の内容は多岐に渡っています。
岡田さんは監督ですから、勝つためには選手を育てなければいけませんし、
どんな人選で、どんなフォーメーションで、
どんな作戦で戦うのかを考えなければいけません。
羽生さんは棋士ですから、盤上でどう駆け引きをするかの他に、
自分に将棋を教えてくれる先生、監督、コーチが居ない状態でどう技術を磨くか、
ということが課題になります。
そのため岡田さんの話は経営者のような部下を持つ立場の人にっとって、
大いにヒントを与えてくれるものだと思いますし、
羽生さんの話は他人から直接的に教わることなくどう自分を高めるか、
個人事業主から新人社員に限らず、
学生や開業医、芸術家といった自由業の方まで幅広くヒントを与えてくれます。

こう書くとビジネス書のような感じがしますが、この本はビジネス書にとどまりません。
例えば中国では、オーナーや監督などチームの有力者とコネがある選手は、
スタメンが約束されていました。
岡田監督はオーナーと話した上でコネのある選手を放出しましたが、
この本を読んでいる方は岡田監督の頑固さに感動したと思います。
また、羽生さんは局面によっては相手に手を渡し、
先に動いてもらって返し技を狙うということが効果的だと述べています。
私はこのことはターン制のゲームのセオリーなのだと思います。
強い手を指すと強いカウンターが返ってくる、制限をかけて手を渡すといった考え方は、
テニスや卓球のようなターン制のゲームだとそのまま当てはめることができます。
サッカーや将棋に留まらず、スポーツを観戦する上で知っているとより楽しめることが、
この本にはたくさん書いてあります。

勝負哲学」より岡田監督の話

脳科学、心理学、運動生理学、さらには気功や琉球空手、
あるいは経営セミナーや話し方教室にいたるまで、
指導の参考になりそうなものにはみんな首を突っ込み、文献を乱読して、
専門家からも話を聞きまくったんです。
<中略>
当時はその占星学まで勉強しましたよ。
それで遅まきながら、わかったことがあります。
指導の本質は、教えるのではなく引き出すことにあるということです。
それまで私は、空のコップに水を入れてやるのが指導だと思っていました。
でも、そうじゃないんですね。
指導とはじつは、
コップの中にすでに入っているものを表へ引き出してやることにほかならない。
そうコペルニクス的に気づいたんです。
エデュケーションの語源はラテン語のエデュカーレで、
まさに「引き出す」という意味だそうです。
そのことに気づいてからは、指導法もだいぶ変わっていきました。
たとえばW杯の戦術において、私は中盤ではシンプルにパスを回せという支持をしましたが、
だからといってドリブルはダメだなどとは一言もいっていないのです。
試合の編集ビデオを選手に見せるときに、
「ここはパスではなくドリブルを選択すべきだった」と思う場面でも、
そうは指摘しません。
それを指摘すると修正になってしまうからです。
修正の多くは前のプレーの否定ですから、次の試合で同様の場面になったとき、
選手は一瞬、「パスかドリブルか」と考えるようになります。
その一瞬が判断の躊躇を生み、プレーの遅さにつながってしまうんですよ。
<中略>
人を育てるのは人じゃありません。環境です。
その環境をつくってやるのが指導者の役目であり、コーチングの真髄じゃないでしょうか。


上記をわかっていない上司を持つと不幸です。
修正ばかりして職場環境は何も変えません。
上記をわかっていない部下を持つと不幸です。
それは教わってないのでできませんなどと平気な顔して言います。
私はわかっていない上司だったなあ。

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書評?「頭脳勝負―将棋の世界」

渡辺明二冠(当時は竜王)による将棋の楽しみ方の本です。



他の将棋の本のように、
棋理を追求したり、何かビジネスに役立つ本だったりではありません。
将棋のルールを知っているくらいの方に、どう楽しめばいいのかを書いた本です。
最後に付録でルールが書いてありますので、ルールを知らない方でも大丈夫。
とはいえ取り上げる将棋の題材がタイトル戦のものなので、
超一流のシェフが松坂牛のステーキをつつきながら、
味わい方を教えてくれるようなグルメな本です。

―――――――――――――――――――――――――――――――――
目次
第一章 頭脳だけでは勝てない
偶然の少ないゲーム /集中力のメリハリ/ヤマを張る/気合で行くか、冷静になるか/
封じ手の駆け引き/直観の精度/ミスと切り替え/駆け引きは対局の前から/
二大戦形/出来を左右する対局の重要度/普段のトレーニング/調子の良し悪し/
将棋は何歳がピークか/小学生からプロを目指す/学業と将棋の両立/趣味と息子

第二章 プロとは何か
奨励会制度/私の奨励会時代/将棋にコーチはいない/プロはどうやって稼ぐか/
新しいニーズ/名人戦と棋士のランク/レッスンプロの待遇/段位と実力の関係/
トップと新人の実力差は/女流棋士の強さ/女流新団体/アマとプロの差/
強くなる手段に困らない時代/アマからプロになった男/ブロガー渡辺/
コンピューターの進化/ボナンザ戦を受けた理由/いよいよボナンザ戦/
コンピューターはどこまで強くなるか

第三章 将棋というゲーム
スポーツを観るように将棋も/序盤は作戦を練る/バランスは相手を見て/
互角でも好みはある/実利を求める中盤/方針を徹底する/勝負を決める終盤/
実戦を見よう!/駒のやりとりでポイントを稼ぐ/損得だけでなく「効率」も見る/
スピードが問われる/定跡と研究/一手の違いで全く新しい世界が/
現代将棋と過去の大棋士/トップ棋士たち/同世代のライバルたち/
追撃する最若手と踏ん張るベテラン

第四章 激闘! 
防衛戦の前に/開幕二連敗/「開戦は歩の突き捨てから」/存在しない局面が見える!/
流れを変えた角打ち/佐藤康光再び/突然の不調/超急戦/全く予想外/盲点/
自分を信用すること

付録1 ルール解説 
付録2 さらに将棋を楽しむために
付録3 詰め将棋(山田康平氏提供)
―――――――――――――――――――――――――――――――――

第一章や第二章は、将棋界や将棋のかけひきについて書いてあります。
 例えば奨励会のこと、順位戦のこと、どこからお金が出ているのかといったことは、
将棋ファンなら知っていることかもしれません。
しかし、局面や手番によって集中力の深度にめりはりをつける、
負けの局面だったけど「勝ちました」という態度で指したら相手が間違えて勝ったなど、
人対人の勝負のあやというものも書いてあります。

第三章と第四章では、実際に将棋の図面を描いて、
形勢判断の仕方や、指しているときの心境が書かれています。
特に、秒読みに追われながら、残り10秒でも良い手が発見できず、
残り数秒である手が頭をよぎって、
正しいかどうかもわからずに指した角のタダ捨ての手は、
後に歴史的妙手と評価されることになります。

将棋を見ていて何が楽しいか、
私は究極の個人種目だから楽しいと思っています。
プロのテニスでも、ダブルスよりシングルスの方がよく見られていますし、
動画の再生回数も多いはずです。
ところがテニスとは違い、将棋はコーチがいません。
野球もサッカーもコーチがいますが、
頭脳スポーツである将棋は頭に体が追いつかないといったことがなく、
定年もないのでコーチがいないのです。
また、持っている戦力も一緒です。
例えばサッカーの日本代表の監督と、ブラジル代表の監督では、
ブラジルの方がはるかに戦力が上でしょう。
テニスでいえばフェデラーのサーブと私のサーブじゃ雲泥の差です。
しかし将棋では、渡辺竜王の飛車も私の飛車も同じように縦横に動く駒です。
そのため将棋は勝つも負けるも本人次第であり、
そんな職業についた棋士を潔いと思います。

ところが将棋の盤上では違う世界が広がっています。
作戦を決めて陣形を整備する、攻撃的にいくか守備的にいくか、
先攻するのかカウンターでいくのか、中央からいくのか端からいくのか、
といった駆け引きは団体競技のものです。
そのうえ作戦の種類も豊富な上に、
どこかの駒が1マスずれると途端に状況が変わります。
例えば横歩取りの将棋で、
後手の飛車が△8四飛の場合ですと守備的な布陣ですが、
△8五飛と1マスずれると途端に攻撃的な布陣になります。

この本では、個対個、組織対組織それぞれの将棋の楽しみ方が書いてあります。
ところが、本書には書いてない楽しみ方があります。
本書は2007年に書かれたもので仕方ないのですが、
今はニコニコ生放送などでタイトル戦の観戦ができます。
ニコニコでコメントするもよし、見るもよし、あるいは2chなどでもよし、
他の人たちと大勢でタイトル戦を肴に、
現役プロの解説を聞きながら縁台将棋の野次馬ができるのです。

贅沢な時代になりましたねえ。



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書評?「どうして羽生さんだけが、そんなに強いんですか?」

将棋の駒の動き方がわからなくても、
勝負の世界に生きるプロ棋士の魅力がわかる、お勧めの一冊です。



著者について

著者の梅田望夫さんはアメリカのシリコンバレーでIT事業に携わっています。
こういうとエンジニアをイメージされると思いますが、
梅田さんはコンサルタントであり、職人とは少し距離を置いた方です。

本のタイトルについて

タイトルは梅田さんの釣りといっていいと思います。
このタイトルだと、
羽生さんをひたすら賛美しているような内容に思われてしまいますが、
梅田さんの望みは
もっとたくさんの人が将棋の棋士に興味を持つようになって欲しいということです。
ただし羽生さんがダントツの実績を残しているのも事実です。
本書は羽生さんと、
タイトルを争った相手の棋士に話しを聞くという形で進行していきます。
 
今の将棋界について

将棋というと伝統芸能であり、古臭いイメージがありますが、
盤上の技術の進歩がすさまじい速さで進んでいます。
棋士同士が研究会をしていて、さまざまなアイデアが出ては試されています。
また、実戦で現れた新手は即座にインターネットを通して広まり、
明日には研究会で並べられて対策をみんなで考えているといった状況です。
当然作戦や新手に著作権は無いので、
秘密にしておいたアイデアが成功したとしても、
手に入れられるのは目の前の1勝だけという世界です。

―――――――――――――――――――――――――――――――――
目次
はじめに―残酷な問いを胸に
第一章 大局観と棋風
・リアルタイム観戦記「割れる大局観」第80期棋聖戦第一局
・対話編「棋譜を見れば木村さんが指したものとすぐわかる」(羽生善治)

第二章 コンピュータ将棋の遥か上をゆく
・リアルタイム観戦記「訪れるか将棋界『X-day』」第80期棋聖戦第五局
・対話編「互角で終盤に行ったら、人間は厳しいです」(勝又清和)

第三章 若者に立ちはだかる第一人者
・観戦エッセイ「『心の在りよう』の差」第57期王座戦第二局
・対話編「あれ、むかつきますよ、勝ってんのに」(山崎隆之)

第四章 研究競争のリアリティ
・観戦エッセイ「研究の功罪」第68期名人戦第二局
・対話編「僕たちには、頼りないところがあるのかもしれないな」(行方尚史)

第五章 現代将棋における後手の本質
・リアルタイム観戦記「2手目8四歩問題」第81期棋聖戦第一局
・対話編「優れた調理人は一人厨房でこつこつ研究する」(深浦康市)

あとがき―誰にも最初はある
―――――――――――――――――――――――――――――――――

将棋の本というと棋譜や図面が載っていて、
将棋が強くないと楽しめないというイメージを持つ方も多いと思います。
この本もタイトル戦の棋譜を題材に観戦記が書かれていますが、
5級向け、初段向け、5段向けと分けて解説されている部分もあり、
様々な棋力の読者に楽しんでもらえるような工夫がされています。

しかし、本書の最大の特徴は対話編にあります。
著者が棋士に話を聞くという形式で進んでいきますが、
棋譜の部分はすっとばして読んでも十分楽しめます。

対局後の羽生さんの態度についての山崎七段の言葉
「羽生さん、怒ってましたよね。
せっかく楽しくなってきたところなのになんだよって感じで。
投げんなよってことなんでしょうけど。
あれ、むかつきますよ、勝ってんのに。」

名人戦の対局が終わった日の深夜、
著者が行方八段、久保九段、対局者であった三浦八段の
深夜の研究会に誘われたときの三浦八段の言葉
「封じ手は▲3九歩か▲3九金を予想していました。
それで昨日の晩は特に▲3九金からの変化をずっと読んでいて、
もし封じ手が▲3九金ならこちらが勝てそうだと思って、安心して、
幸せな気持ちで眠ったんですよ」

深夜のお酒の席上でのある棋士の言葉
「深浦さん、王位ひとつならいいけど、タイトルふたつ以上は嫌だなあ」
「深浦さんは羽生信者ですよ。でも、そういうふうを見せながら、
その羽生に勝った俺は偉いんだ、と自己主張している」

私は将棋ファン、棋士ファンとして、
こういった言葉を聞きだせる梅田さんが非常にうらやましいです。
棋士との信頼関係が非常にうまく築かれているように思います。
将棋の観戦記者と棋士も信頼関係があると思いますが、
観戦記者との違いは梅田さんの立ち位置にあると思います。

通常の観戦記の場合、指し手についての質問に話がいきがちで、
棋士の言葉も符号が多くなってしまいます。
その結果、盤上の真理に話が進んでしまい、初心者お断りの空気が漂います。

ところが、梅田さんは職業が観戦記者ではないにもかかわらず、
棋士と信頼関係を築いていて、また、棋力も初段くらいといったことから、
かなりミーハーな立ち位置で棋士から本音を引き出すことに成功しています。
そのため将棋の強くない人、指し手について書かれてもわからない人でも、
棋士の魅力が十分に伝わる本です。

観戦記者のうち何人が、山崎七段の
「あれ、むかつきますよ、勝ってんのに」
なんて言葉を引き出せますかねえ。
また、羽生さんが梅田さんに狂気を見せるシーンもありますが、
いったい何人が狂った羽生さんを見たことがありますかねえ。
私が観戦記者でこれを読んだらそれこそ嫉妬で発狂ものだ。 



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