森内俊之名人に糸谷哲郎七段が挑戦する第27期竜王戦七番勝負第1局は、
糸谷七段の封じ手で初日が終わりました。
第1局は海外のハワイでの対局ということで、
普段とは違った雰囲気のタイトル戦になっています。写真は竜王戦中継ブログより。

記者会見に挑む森内竜王と糸谷七段
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地元ラジオ局に出演する谷川会長と森内竜王と糸谷七段
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ワイキキ・ビーチで記念撮影
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なかなかリラックスムードです。
また、関西の棋士達が糸谷七段の応援に駆けつけています。
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※応援しています

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※応援しています
※写真の西川和宏五段は新四段になったときに、
総会に集まった200人近い先輩達の前で「酒が好きです」と挨拶した剛の者です。

前夜祭では挑戦者の糸谷七段が一神教とシャーマニズムについてスピーチしていました。
初のタイトル戦のスピーチでこれはなかなかの怪物ぶりですね。
糸谷七段は大阪大学文学部から大阪大学大学院文学研究科に進んだ、
棋士としては変わった経歴の方ですが、哲学専攻の棋士らしい挨拶ですかね?
新人王戦で優勝した時は、中学時代に「資本論」を読破したという話をして、
主催紙「赤旗」の皆さんが大いに喜んだとか、
第一声が「将棋は斜陽産業ですので」だったので、
当時の米長邦雄会長が怒って帰ったとか、
エピソードには事欠かない怪物棋士です。香川女流には弱いですが

そんなわけでハワイで開催されている竜王戦の第1局ですが、
同行している野月浩貴七段、関西若手棋士主催の西遊棋、関東若手棋士主催の東竜門
それぞれがハワイからTwitterで様子を伝えてくれていますので、こちらもどうぞ。

さて対局は振り駒で糸谷七段の先手番となり、角換わり腰掛け銀の定跡型になりました。
ニコニコ生放送では朝の4時から対局場の生中継、
8時半から解説富岡英作八段、聞き手山口恵梨子女流初段で大盤解説会が始まりました。
富岡八段はこの二人ならどちらが先手でも角換わりかなと思っていたそうです。
富岡八段は角換わり腰掛け銀の同型から富岡新手を発見した棋士で、
この手でどうも先手が勝ち、
という結論を出してしまったようなインパクトを残した棋士です。
今の角換わりが手待ち合戦になっているのも、
普通に組み合ったら富岡新手で先手が勝ちなんでしょう?となっているせいで、
角換わりの解説にピッタリ、角換わりの大家ですな。

そして解説が始まりましたが、角換わり特有の手を待ちながら隙をうかがう展開になり、
糸谷七段が飛車を▲4八飛車から▲2八飛車と戻した手について
富岡八段「実は私もよくわかりません」

今日はponanzaの評価値や候補手も見れるということで、
ponanzaの△5九角から角金交換で攻めていく手順も解説してくれました。
結構うるさい攻めかもしれない、人間にはなかなか思いつかない手、
違う場面での△5九角はある手だが、この場面で指すのは人間には無い感覚で、
最近プロの若手がコンピュータを使って研究しているのもわかるとのこと。

この後森内名人のインタビューが放送され、
長いシリーズになるが対局が盛り上がるように全力で挑みますとのこと。
アロハ着てました。
富岡八段「嬉しそうな顔してましたね。目じりがさがっているかんじ」

糸谷七段はインタビューで、初タイトル戦だが普段と変わらずに挑む、
ハワイの景色を楽しんで帰りたいとのこと。余裕があるなあ。

記録係りの石田四段もインタビューがあり、
立候補で記録係りになった、寝ないように頑張るとのこと。
立候補制だったのか…。
富岡八段「動きが無いと眠気が襲ってくる。人間の生理現象で仕方ない」

富岡八段の色紙「好手は歩から」
安定のぐらぐら机などとコメントされてましたが、さらさらっと書いていました。
ずいぶん書きなれている…
好手を指したいのであればまずは小さい駒で細工しようということらしい。

糸谷七段の色紙は「自由」、絵みたいに自由に書いていて富岡八段感動。
富岡八段「ただもんじゃない気がしてきました」
森内竜王は「安詳」。
運営は2時から仕事しているらしい。お疲れ様です。

初手から解説になり、先手の糸谷七段が定跡手順ではなく工夫して指しているとのこと。
右の銀を3八に置いたまま、棒銀、早繰り銀、腰掛け銀の態度を保留して、
相手の駒組を見ながら決める工夫をしているとのこと。後だしジャンケンですな。
結局角換わり腰掛け銀の定跡型に合流しましたが、
この後の後手は△7三桂を跳ねるタイミングを見きわめるのが重要らしい。
早いと桂馬の頭を狙われて形勢を損なうとのこと。

他にもこの対局では出ませんでしたが、先手が▲2八角と打つ定跡を解説し、
郷田九段が後手で好手を発見して一時下火になったが、
最近だと羽生王位がタイトル戦で採用して圧勝していて、
森内竜王は糸谷七段の▲2八角を誘ったのかもしれないと解説。

また、手待ちの▲6八金に後手の手待ちの△2四銀と指す手順は、
豊島七段が最初に丸山九段相手に指して、王位戦第3局でも出たとのこと。
この時は羽生王位が先手番で先に仕掛けたが、後手が優勢になったらしい。
富岡八段「しゃべりだすと一時間くらいしゃべっちゃうからね。
面白いんだよね角換わりの将棋はね」
本当に楽しそうに定跡の解説をしていました。

糸谷七段は▲9八香と穴熊に囲う手を見せ、
山口女流「先生穴熊組めますかね?」
富岡八段「穴熊…組めないと思うなあ」
ponanzaは先手-200の評価。
攻め好きponanzaは穴熊なんか嫌いじゃってことなのか、
この瞬間攻められるだろということなのか。

コンピュータについて富岡八段
「若手はみんな使ってるって聞いてる。
我々の世代だとあまり使ってないような気がする。違和感がある。
自分で考えるっていう面白みが減ってくる気がするから。
なおかつ将棋が好きで楽しめるなら導入する価値があると思う」

次の一手アンケート
△1二香29.5%、△6五歩24.9%、それ以外45.6%。
富岡八段もニコニコ生放送でコメントしたことがあるらしい。
答えてもらったこともあるとか。
富岡八段「私はその他が有力だと思います(キリッ」
そして休憩に入った直後にその他の△3五歩。

休憩後はponanzaの攻め好き予想手を解説し、
富岡八段「野獣攻めだったよ?今の?」
興奮気味にそんな手あるの?みたいな手が出てくるので、
研究になるよと褒めていましたが、
この後買ってしまいそうなくらいの食いつきっぷりでした。

質問メール
富岡八段はB級1組で故村山聖九段と2度指していますが、
その時のエピソードを教えてください。
富岡八段が当時27歳か8歳くらい、村山九段が22歳か3歳くらいだった。
自分が勝てばA級だったが、その将棋は負けてしまい、後で並べなおしたら完敗だった。
その後村山新八段になった。自分は力不足。
村山さんはその時から天才的な冴えがあって、考えていることがこいつは違うなと思った。
序盤もうまかったが中終盤の怪力がすごく、普通に力でぐーっと持って行かれた。
村山さんとは2局とも矢倉。

ちなみに富岡八段が角換わりを指すようになったきっかけは、
40近くなってから新しいことにチャレンジしたくなったからとのこと。
角換わりは江戸時代から原型があって、
その頃の将棋、昭和初期、大山升田時代、ときてその進歩の延長上に今の新手がある。
ここに何かありそうだなというところを突っ込んで調べて、
無くても勉強になるわけだから、俺があると思うから考えるんだ、
という精神でいくとたまにある。
大きな通りの真ん中に大きな穴があるんだけど、
何でみんな素通りしていくんだろう、おかしいな、
と思って調べたり、それで角換わりは面白い。
それが勝率に繋がらなかったりして悔しいところなんですけどね。
新しい手を見つけるのは楽しい。

バックギャモン世界選手権で森内竜王が4位になった。
数々の逆転勝ちをして4位になったらしいが、富岡八段は何かゲームをしますか。
森内さんはどのゲームをやってもそのゲームの特徴、本筋を捉える力が優れていて、
すぐに強くなっちゃう。ゲームの達人なんじゃないかな。
羽生さんなんかだとチェス。
全員そうかというかどそうでもなくて、意外と不器用な棋士もいる。
自分は登山が好きで、仕事で地方に行くと一日休みをもらう。
こないだ岩手で仕事があったので、一日休みもらって登山に行き、
紅葉がすごく綺麗だった。
将棋を室内でさして、休みはアウトドアが私としてはそういうバランス。
中川さんは登山研を開いている。メンバーは渡辺竜王とか。
歩くと脳が活性化されるんですか?
それが糸谷ペース。歩きながら考えることでリズムをとっていく。

棋士に向いている性格はありますか。
几帳面で整理整頓が好きな人が向いていると思うんですが。
几帳面な人も向いている。整理整頓能力が早い、美しい将棋の方が強い、
駒があちこち散らばっている将棋はなかなか勝ちにくい。
綺麗に駒が捌けていく将棋の方が勝ちやすい。
この銀無くていいなとか思えると、その駒を捌いていくという感覚がでる。
私はものがたくさんあるとパニクるので、迷いたくないので単純に単純にいく。
最近は物を増やさないように心がけている。
なるべく少なく少なくしていくように。
将棋の手も狭く狭くかもしれないな。私の場合はね。

電王戦で座布団や駒台をまわしているのを見たが、向きが決まっているのか。
これはある。座布団の向きがあるかないか。
私の勘なんだけど棋士は縦縦に入っているのがすき。
将棋の盤も縦に線が入っていて、
駒台も縦に線が入っている方が美しいと感じるようにできている。
これを横にすると盤が縦、駒台が横の木目になってしまう。
これを記録係りが間違えるとぱっと棋士が直す。そろえるのが癖になっている。
座布団も縦系の座布団と横系の座布団がある。
窪田六段が研修会で60枚もある座布団を、全部同じ目になるように並べなおしていた。

ここで立会人の佐藤九段の前日インタビュー。
立会人と解説としてきたんですけど他の棋士に申し訳ないな、とのこと。
ハワイいいのぅ。

その後はponanzaの読み手順を解説後に、
富岡八段「既に形勢に差がついている恐れはあるね」
ただしponanzaは後手持ち、富岡八段はponanzaの読み通りに進んだら先手持ち。

形勢判断アンケート
森内竜王34.4%、糸谷七段28.4%、Nyan37.1%。
ハワイということでにゃんがアルファベットに。

ここで糸谷七段の考慮中に定刻5分前になり、谷川会長と佐藤九段が入室。
富岡八段「さすがにここで指すだけの根性はないでしょう」

封じ手予想として▲3六歩、▲3六角、▲2八飛を解説後に、
コメントに▲5八角という受けの手登場。
解説を進めるとなかなかありえる手とのこと。

封じ手アンケート
▲3六歩21.6%、▲3六角19.2%、▲2八飛6.0%、▲5八角35.3%、その他17.8%。

どれを指しても良くなりそうな順がありそうで、糸谷七段もかなり迷っていました。
富岡八段「将棋はいい手がたくさんあるときに間違える。
一手しかなければそれが細い道でも間違えない。
初めてのタイトル戦でいい手がいくつかあるのでこれは迷うでしょうね」

ずっと考え続ける糸谷七段 
アンケート
10分以内に封じる20.2%、30分以内に封じる28.3%、1時間以内に封じる9.0%、
1時間以上7.8%、うっかり指しちゃう34.7%。
うっかり指すとそれが封じ手になり、反則負けにはならないらしい。
森内竜王は定刻を25分過ぎたところで席を立つ。
対局者としてこれは長くなるなと感じたのだろうか。
富岡八段はこのくらいの局面だと本筋に見える手を20手30手ほどの深さまで読み、
それ以外の手はあまり読まないとのこと。
深さで30手だと枝葉入れたら何手になるんだ…。

定刻を30分過ぎたところで、
封じ手の封筒にサインするシーンまでばっちり生放送されて終了となりました。
が、ここでちょっとしたハプニング。
前日に谷川会長に封じ手のやり方を教わっていた糸谷七段ですが、
取材陣がカメラを構えて待っているのを忘れて封筒を会長に手渡ししてしまったので、
一旦封筒を糸谷七段に戻してから、
両手でおじぎしつつ立会人に渡すシーンを撮影しなおしていました。
封じ手って難しい。 

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封じ手を渡すシーンの再現に笑いをこらえる森内竜王

こうしてハワイでの対局となった1局目の初日は終わりました。

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富岡八段「わからない…私は…▲3六角かな」

明日2日目もニコニコ生放送では4時から生中継、
8時半から解説藤井猛九段、聞き手飯野愛女流一級で大盤解説が始まります。
タイトル初挑戦の糸谷七段が、
哲学挨拶、封じ手シーン再現に続く伝説を残してくれるのか、
勝負の行方以外にも注目です。

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