渡辺明王将に羽生善治三冠が挑戦している第63期王将戦七番勝負第4局は、
羽生三冠が渡辺王将を破り、2勝2敗の五分に星を戻しました。

先手番の羽生三冠は角道を開ける▲7六歩ではなく、飛車先を伸ばす▲2六歩でした。
これは矢倉は指さないという意味なので、横歩取りや相掛かりの激しい将棋になる、
かと思いきや、渡辺王将はまさかのゴキゲン中飛車を採用しました。
渡辺王将は5日前の王位戦挑戦者決定リーグで、
佐藤康光九段を相手にゴキゲン中飛車を採用しています。
この時は居飛車の将棋を避けたのは研究ストックをタイトル戦に取っておくため、
などと言われてましたが、まさかタイトル戦の前ふりだったとは。
去年の夏に放送された、渡辺王将と競馬の騎手の福永祐一さんとの対談の中で、
以下のような話があります。

渡辺
「これから伸びしろがあるかな、もうそんな変わらないんじゃないかなと思っている」
福永
「僕は30歳の時、もう伸びしろないと思っていた。
成績は悪くなかったが、初めてやめようかと思っていた。
これ以上うまくなれない。自分はちゃんとやってきたと思ってもいたし。
そこから、色々な人と会って、伸びしろって増えるんだなと考え方が変わった。
コーチや友達と会って刺激を受けて、
自分の限界を勝手に自分で決めていたとわかった。そこから楽しくなった」


その後渡辺王将は長年タイトルを保持していた竜王位を奪われましたし、
純粋な居飛車党から伸びしろを求めて振り飛車を指しているのかもしれません。
羽生三冠はゴキゲン中飛車に対し、超速▲3七銀と呼ばれる戦型を選びました。

ニコニコ生放送は解説が永瀬拓矢六段、聞き手が貞升南女流初段でした。
永瀬六段は振り飛車党から居飛車党へ最近鞍替えしたのですが、
その理由は負けすぎたから、みんな居飛車がいいと思ってるから気分が落ち込む、
と述べていて、鈴木大介八段が永瀬君の研究は相手をはめて勝つための研究だ、
と言っていたのを思い出しました。
その後も電王戦の話題では、今回のように提供されるのであれば、
事前の練習で分が悪ければ千日手狙えばいいじゃん、
でも誰が見たいんだって問題があるので私には声がかからないと思うと述べてました。
ずいぶん勝ちに飢えているというか、
羽生世代の棋士はいい棋譜を残したいという達観したコメントをするので、
やっぱり若い勝負師はこうでないとねと思いながら聞いていました。
永瀬六段はニコ生初登場でしたが、
ずっとしゃべって笑って、これは先輩に好かれるはずだはと思いました。
また、ちょいちょい貞升女流にどう指しますかと振って、
黒永瀬、永瀬軍曹のブートキャンプ、タクヤズブートキャンプ、
などとコメントされていました。
また、永瀬六段といえば当然千日手王ですが、
序盤は飛車角、中盤は桂馬、終盤は金銀で千日手になりやすいと、
独自の千日手論を披露していました。
局面はゴキゲン中飛車の定跡形で進みました。
永瀬六段は意外と定跡形だった、
居飛車党の棋士が普通の振り飛車を指しているのが意外との感想でした。
メールコーナーで持ち時間は何時間がいいですかという質問には、
持ち時間は3時間が好きだけど棋戦がない、早指しは結果が伴わないから好きじゃないと、
ここでも勝ちに飢えてるコメントでした。
確かにベクトルが勝つことに向かっていますね。
研究会は誰とやっているのかという質問には、
昔加藤桃子奨励会1級と週2くらいでやっていて、現在加藤さんは棋風改造中だそうです。
里見香奈さんが棋風を改造しつつ奨励会三段まで上がっていますから、
里見さんが女性の棋士の目標になっているのがよく分かりますね。
その他に鈴木大介八段、深浦康市九段、戸辺誠六段、
佐々木勇気四段の名が挙がりました。
数えてみたら1ヶ月で24日研究会だったそうで、対局日以外はほとんどですな。
羽生三冠と対局した時は、永瀬六段は羽生の頭脳を読んで勉強したので、
この本を書いた人と戦うのかと感慨深かったそうです。
電王戦は1勝3敗1分だったですがという質問には、
1勝1敗は負け、理由は1年棋戦に参加して例えば9勝9敗だとご飯が食べられないから、
4勝1敗くらいなら勝ち、3勝2敗は僅差と、ここでも独自の勝負観を披露してました。
また、相振り飛車だと積み上げていく将棋だから人間の方が勝ちやすいとのことです。
自身が振り飛車党から居飛車党になった理由は、
鈴木八段に居飛車は人生観が出るから20歳になってから居飛車にしろ、
と言われたからという理由もあるそうです。
鈴木八段は振り飛車党ですが、人生観を悟られるのが嫌なんだろうか。
振り飛車党のときは記者の方に暗黒流ですねと言われたそうで、
勝ちにこだわったどろどろした将棋ということですかね?
今は奨励会の伊藤沙恵奨励会1級が暗黒流を受け継いでいる人だそうで、
奨励会の将棋にまで目を通すとは流石若手の研究家と言った感じです。
伊藤さんの師匠はさわやかな屋敷伸之九段ですが、
どうして弟子が暗黒流になるんだろう。
恒例のサインのコーナーでは「根性」と言う文字でずいぶん凄い字を書きました。
筆ペンでかすれた字を書く人は初めて見た気がしますが、
本人は山口恵梨子女流よりは上手い、隣に山口さんがいると安心すると、
何故か明日聞き手の山口女流に火の粉が降ってきました。
その後封じ手直前にハプニングがありました。
対局場の記録係の机の上に虫が登場し、
渡辺王将が見つけて記録の方がティッシュで虫を捕獲してましたが、
これには永瀬軍曹も大爆笑でした。渡辺王将の虫嫌いは有名ですけどね。
渡辺王将と虫のハートフルエピソードは例えば下記のようなものがあります。

妻の小言。より


家の中に大きな虫が出現し、パニックになった旦那はスプレーを誤って逆向きに噴射し、
自分の顔にかけるというありえない行為をしていました。
みなさまもお気をつけください。

武田尾温泉
自然に囲まれた旅館というのは虫も多いもの。
虫嫌いの旦那と息子は、虫が出現するたびに悲鳴をあげていた。
「あのー、大変申しわけないんですけど……カメムシを取ってもらえませんか?」
へっぴり腰でフロントに電話をかける旦那のかっこ悪さといったらなかった。


旦那がゼェゼェ息を切らせながら家に帰ってきた。
聞けばマンションの階段に蛾(ガ)がいたとのこと。
彼は部屋の中にハエ1匹いるだけでパニックになる人間である。
私が洗濯物を干すためにベランダの窓を開けっぱなしにしていると、
どこからともなく現われすかさず窓を閉める(いつになく機敏な動作で)。
そして私はベランダに閉めだされた格好になるのである。

将棋用語
わたなべりゅう【渡辺流】
1 対局前に研究も虫対策も余念がないこと。
2 気にしすぎ。


ちなみに永瀬六段は対局中に角の上に虫が止まり、
どちらも角を取らなかったので2時間くらいずっと虫がいたそうです。
1日目は羽生三冠が指しやすいのではという形勢で、渡辺王将の封じ手になりました。

2日目のニコニコ生放送は解説が深浦康市九段、聞き手が山口恵梨子女流初段でした。
リレー質問で永瀬六段から深浦九段への強さの秘訣を教えてくださいという質問には、
気持ちの切り替えが大事だと答えてました。根性の男ならではですね。
山口女流へのバレンタインデーはどう過ごしていましたかという質問には、
雪だったし家で引きこもって寝てた、チョコを渡したのは加藤一二三九段くらい、
とのことでしたが、バレンタインデーは深浦九段の誕生日と言うことで、
山口女流から深浦九段へサプライズプレゼントがありました。
深浦九段の最近のバレンタインエピソードは、
娘さんに男の子にチョコを渡すからパパ着いてきてと言われて、
チョコを渡す姿を電信柱の影から複雑な気持ちで見ていたとのことです。
毎回ネタを持ってくる山口女流ですが、
前日解説の永瀬六段は、その前の日の研究会を6時で切り上げニコ生に備えたと、
早速裏情報を披露していました。
また、丸山忠久九段が対局にハーブティーを持ってきていて、
奨励会はハーブティーブームだそうです。ますますミステリアスな丸山九段です。
最近将棋とサッカーを絡めたイベントがありましたが、
深浦九段は将棋連盟サッカー部初代部長だそうで、
グラビアアイドル対棋士でサッカーをやった時は、
グラビアアイドルが全員勝ちに来ている目で怖かったとか。
確かにいい勝負なのかもしれない。
ティロフォンコーナーでは立会人の藤井猛九段が登場しましたが、
副立会人の行方尚史八段が二日酔いで、
昨日は帰りのタクシーに乗せるのが大変だったと、
行方八段の酒エピソードにまたひとつ伝説をくわえていました。
深浦九段も行方八段が奨励会三段だった時に、
パチンコでお金が無いというので1000円貸したら5分後にはパチンコに突っ込んでいて、
こいつは四段になれないなと思ったとのエピソードを暴露し、行方株大暴落でした。
その後はサンフランシスコに行ったときに、行方八段の荷物に日本酒が4本入っていて、
こいつ大丈夫かなと思ったけど日本からの土産として現地の方に配っていたと、
行方株を買い支えていましたが…。
盤上では昨日の封じ手の局面は先手良しと見られていましたが、
渡辺王将が先手玉を頭の上から押さえつけるように銀を配置し、
羽生三冠が自身の王様の隣にいる角を一番後ろまで避難させて、
まるで働いていない状態にするという不思議な手順になりました。
そして昼過ぎにはバランスが取れているという形勢になり、
渡辺王将が押し返したという評判でした。
2度目のティロフォンコーナーでは行方八段が登場しましたが、
現地で聞き手を務めた工藤アマがかわいい、深浦さん好みなタイプ、
いや恵梨子ちゃんもかわいいよと完全な酔っ払いトークでした。
サンフランシスコの日本酒土産も半分は自分で飲んだと、
何故か行方株を暴落させた後に形勢については後手がいいと断言して帰っていきました。
この辺りは先手の王様の見慣れない囲いやニート状態の角をどう評価するのか、
というよくわからない展開で、深浦九段も困りっぱなしでした。
サインコーナーでは、やっぱりというか山口女流も色紙に字を書く羽目に。
永瀬六段と同じ根性の色紙を書いて、どちらが上手いかのアンケート勝負になりましたが、52.7%対47.3%での勝利にちょっと納得がいかない様子でした。
その後の解説は現地のコメントも交えてとなりましたが、
行方八段のコメント「これは▲3三歩と打って、あれれ。これは先手がいいですよ。
さっきニコニコ生放送のティロフォンで後手がいいと断言したのに、私の信用が……。
しかし、まあ、この将棋は相当に深い。それは間違いないので。」
深浦九段「まだ酔っ払ってる?」
さらに行方八段のコメント「(ニコニコ生放送で初手から振り返っているのを見て)
ちょっと深浦さん、そんなことしてる場合じゃないかもしれませんよ。
初手から振り返っている場合じゃないかも」
深浦九段「え?行方君に心配されてるの?僕?」
と、行方八段の酔っ払いコメントに深浦九段ご立腹でした。
盤上では羽生三冠が竜を作り、角を香車で取り、
盛り返したと見られていた後手の渡辺王将が急に攻められる展開になりました。
その後も羽生三冠が丁寧に攻め、
と金を作ったり早逃げをしたりと粘る渡辺王将の王様を即詰みに討ち取り、
羽生三冠が2勝2敗のタイに星を戻しました。
渡辺王将のゴキゲン中飛車はやはり独特で、
中盤は形勢の評価が分からない大熱戦だったのですが、
渡辺王将の対局後のコメントにもある通り、
羽生三冠の▲3四銀から急に攻めが止まらなくなってしまいました。
その前の▲3五歩に対して△同歩と素直に取ったのですが、
振り飛車党の藤井九段や解説の深浦九段は△2四角を推奨していて、
この辺りの感覚がやはり居飛車党と振り飛車党では違うのかもしれません。
渡辺王将は22日の土曜日に棋王戦を控えていますので対局が忙しい期間に入りますが、
このタイミングで振り飛車も指そうとはなかなか意欲的ですね。
例えば中原誠十六世名人は名人位を9連覇した後に加藤一二三九段に敗れましたが、
当時はどうしても勝ちたいという意識が強くなり、
作戦の幅が狭くなっていたと言っています。
無冠になってからやっと吹っ切れたとも述べていますが、
渡辺王将は二冠のうちに吹っ切ったということでしょうか。
三浦弘行九段との棋王戦も、22日は渡辺棋王が後手番ですから、
どんな戦型を選ぶのか注目ですね。

ブログランキング・にほんブログ村へブログランキングならblogram

勝負心
渡辺明著
¥788