渡辺明王将に羽生善治三冠が挑戦している第63期王将戦七番勝負第3局は、
羽生三冠が渡辺王将の先手番をブレイクし、1勝2敗としました。

戦型は先手の渡辺王将の▲7六歩に、
羽生三冠が矢倉でも角換わりでもどうぞという△8四歩を指し、
渡辺王将の選択で矢倉になりました。
その後の分岐で羽生三冠が後手急戦矢倉を選択します。
この二人ですと勝った方が初代永世竜王となる2008年の第21期竜王戦で、
渡辺竜王が3連敗から2連勝した後の第6局、第7局で後手急戦矢倉を連採し、
見事3連敗からの4連勝を決めて初代永世竜王に輝いた対局が有名です。
渡辺竜王がここぞというタイミングで採用した後手急戦矢倉を、
羽生三冠が0勝2敗というピンチな状態のときに使ってきました。

ニコニコ生放送では初日の解説が先崎学八段、聞き手が安食総子女流初段でした。
先崎八段によると、渡辺王将は決断力、大局感の明るさ、寄せの鋭さが長所とのこと。
午前中でしたので雑談多めでしたが、
先崎八段は10時には寝る、
神吉宏充七段との将棋パトロールではリハーサルもなく3本撮りとかもやった、
題材は全部神吉さんが選んでくると裏話に花を咲かせました。
ところが26手目に羽生三冠が飛車を8五、8四、8二のどこかに引くという手の選択で、
先崎八段が△8五飛1割、△8四飛2割、△8二飛7割と言っていましたが、
羽生三冠が積極的な△8五飛を選択します。
先崎八段はある対局で△8五飛と引く前と同一局面になり、
△8五飛って相手に指されたらどうしようかと1時間以上考えてしまったと述べて、
どうなるかすごい楽しみとご機嫌でした。
ちなみに2012年の第60期王座戦第1局、先手羽生二冠対後手渡辺王座のタイトル戦で、
渡辺王座が△8五飛と指して勝っていて、
渡辺王座の得意戦法を羽生三冠がぶつけてきたということになります。
この後は両者時間を使いながら指し手を選ぶ戦いになりました。
先崎八段の解説はこれが筋、これは普通は無い手、
これがいい形、これが悪い形といったような、
ぱっと見た直感で良い悪いを判断することが他の棋士よりも多いです。
子供の頃将棋道場で、寝転がりながらマンガを読みつつ、
大人相手にほとんど考えないで指して勝ちまくっていたという時代がありましたが、
これだけ早く手と形勢が見えればそりゃ勝つよなあと思いました。
ちなみに囲碁は将棋のプロ入りが決まった直後に、
対局がほとんど無く暇だったので覚え、半年で三段になったとのことです。
これが天才先崎か。
局面は34手目の▲7九玉で、両者の王座戦と手が変わりました。
その時は先手の羽生二冠が▲8四歩とつっかけて、
棋譜コメントに「ひええ、頑張るなぁ。なぜ▲7九玉じゃいけないのか」とありますので、
渡辺王将もそんなに頑張らなくていいじゃないという意見なのでしょう。
その後羽生三冠が渡辺王将の陣形を乱してから△8二飛と飛車を引き上げたところで、
49手目に渡辺王将の封じ手になりました。
封じ手になる少し前に、4人ほどぞろぞろと対局室に入ってきたところで、
先崎八段が封じ手圧力をかけている、多分このあと温泉に行きたいんだよ、
ここまで露骨に封じろと言われるといくらなんでもと笑っていました。
すぐに封じ手にしそうな渡辺王将でしたが、
5分ほど温泉に行きたい人たち?を焦らしプレイしてから封じ手となりました。

二日目のニコニコ生放送は解説が広瀬章人七段、聞き手が藤田綾女流初段でした。
プライベートは充実していますか、という先崎八段からの質問には、
最近波戸康広さんの引退試合を見に行ったと述べていました。
今月の18日にニッパツ三ツ沢球技場で引退試合があり、
波戸さんがハットトリックで胴上げされて感動したと言ってました。
波戸さんは元日本代表のディフェンダーで現横浜FMのアンバサダーですが、
将棋親善大使でもあります。
例えば2013年4月27日には日産スタジアムで「サッカー×将棋特別イベント」が開催され、
広瀬七段と波戸さんが公開対局で戦っているという間柄です。
2枚落ち+目隠しの広瀬七段が勝ったようで、
対局後に両者の持ち駒まで正確に言い当てた広瀬七段にギャラリーが驚いていたとか。
藤田女流も波戸さんの引退試合を見に行ったそうで、
サッカーと将棋の不思議なコラボは今後も続くと思います。
ちなみに今年の将棋の指し初め式は波戸さんも参加し、
3手目を渡辺二冠が指した後の4手目を指しました。
初手が谷川会長、2手目が森内竜王名人ですから、
4手目とはなんだかすごい重要なポジションのような。
羽生さんの手番で次の一手アンケートになりましたが、
選択肢が5つ+その他という選択肢で、
その他にも2手ほどありそうな手がある選択肢の広い局面でした。
その後少し進んだところで羽生さんが、
自分の飛車取りを無視して相手の飛車取りとなる△3九角を指し、
広瀬七段が驚いていました。
将棋は優勢なときは局面を簡単にして間違わないようにする、
不利のときは複雑にして間違えさせるようにするという考え方がありますが、
私には羽生さんが少し悪いと見て、
複雑にすることに成功したような感じに見えました。
渡辺王座が飛車取りを逃げつつ攻撃に使う、という手を指して昼食休憩になります。
ここで休憩時間を攻撃する側の羽生さんが自分の手番で考えられるのは大きいような。
休憩後は恒例のサイン本プレゼントがありましたが、
何故か藤田画伯もクマを描いてプレゼントすることに。
これうまいかもという自信作でしたが、これも画伯として後で動画になりそうです。
局面は渡辺王将が銀を前に繰り出し攻める姿勢を見せましたが、
羽生さんのカウンターが鋭く、解説の広瀬七段も羽生さんがよさそう、
渡辺さんの狙いがわからないと述べていました。
その後渡辺王将が席を外しましたが、
やっぱり表情や行動でどう思っているのか分かりやすいような。
局面が一気に終盤になり、
休憩を入れるなら今しかないかなと広瀬七段が言って休憩になりましたが、
その後に手がぱたぱた進み、
予定を早めて再開した直後の15:49に渡辺王将が投了しました。

対局後に広瀬七段が「△3九角は今見ても不思議な手」と述べていましたが、
64手目の△3九角の後一気に羽生三冠が勝勢になって、
18手進んだ82手で投了ですから、この手が羽生マジックだったのでしょうか。
対局後のインタビューで羽生三冠が△3九角を、
「無理気味かなと思ったんですけど、勝負手のつもりで」
と述べていて、渡辺王将はどの辺で誤算があったことに気がついたかという質問に、
「△3九角からの攻め合いですか」と答えています。
渡辺王将は完勝型というよりは逆転型だと思いますが、
その渡辺王将が△3九角から18手で投了ですから、
羽生マジック炸裂局と言っていいと思います。

いしかわごう著「将棋でサッカーが面白くなる本―3日で理解できる将棋戦法入門」より
渡辺明二冠と中村憲剛選手の話

渡辺
明らかに劣勢の時は負けなので、投了するしかないですが、
微差だったらまだ可能性があるので、相手のミスを待ちます。

中村
ミス待ちをすることは多いんですか?

渡辺
そうですね。自分の場合は、相手のミスをとがめて、そのままリードを保って勝ちます。
先ほど中村選手も「サッカーはミスが起こるスポーツ」とおっしゃいましたが、
将棋も相手のミスがなかったら勝てないと思っています。
相手にミスがなくて、自分の手が良かったから勝てたという内容の将棋は、
年に1回あるかどうか……いや、数年に1回ですね。

中村
なるほど。サッカーでも高いレベルにいけばいくほど、一つのミスであったり、
一つの隙を見せてしまってそこでやられてしまうことが多いです。


相手のミスをとがめて、そのままリードを保って勝つとかそう簡単におっしゃられても。

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