第2回電王戦の第4局、Puella α対塚田泰明九段の対局は、
持将棋で引き分けに終わりました。

放送開始18,759人
対局開始38,387人
朝からすごい人数だ。

塚田泰明九段、Puella αの開発者伊藤英紀さん共にスーツで来ました。
電王戦は和服で対局された棋士が連敗してるので験担ぎかもしれません。
伊藤さんは前日からTwitterでつぶやいていて、将棋会館に泊まったそうです。
アウェー感を満喫とおっしゃっていました。
電王戦2回目ですから余裕がありますね。

塚田九段は攻め100%、と振られて解説の木村一基八段が私は受け100%と答えてました。
流石は千駄ヶ谷の受け師。
聞き手の安食総子女流はひたすらほんわかしてました。

対局が始まり、4手目に後手が角道を止めて矢倉に誘導するという、
いわゆる無理やり矢倉という戦型になりました。
矢倉戦では通常は後手だけが飛車先の歩を突いていますが、
この対局は先手だけが飛車先の歩を突いているというのがポイントになります。
下記は渡辺明三冠の言葉です。

梅田望夫著「シリコンバレーから将棋を観る―羽生善治と現代」より

そもそも私の感覚では、新矢倉24手組の局面は、
後手が後手番の上に飛先を一つ突いていて、
先手だけ突いていない分だけ可能性が広い、
それが▲4六銀▲3七桂の好陣形に繋がるわけですから、
突き詰めれば早くも先手が得している局面なのです。
では、後手のどこがおかしいのか、ということになると、どんどんさかのぼって、
5手目に▲7七銀なり▲6六歩と
先に角道を止めたやや違和感がある手をどうとがめるのか、
というところに行き着くような気もしています。


この対局では塚田九段が先に角道を止めましたが、これは
コンピュータは序盤が苦手だから角道を止めた手をとがめられないでしょう?
と言っています。
このまま漫然と駒組みをして持久戦にすると、
後手だけ飛先を突いていない分だけ可能性が広い、
という局面に誘導されてしまいます。
横歩取りという選択肢もあったので角道を止めた時は驚きましたが、
とがめられないでしょうと言ったのはコンピュータと指しての研究でしょう。

木村八段はニコニコ生放送のアンケートを押したことがある、家で見たりする、
とおっしゃっていました。
棋力アンケートで名人が18%もいましたけど
もしかしたら1人くらい名人がいるかもしれませんね。

対局は攻めの形を築きにいった後手を先手が角を使って牽制する展開になりました。
その後Puella αが端歩の位を取りましたが、大雑把に言いますと、
矢倉の端歩は相手が棒銀で攻めてくる可能性があるうちは受けないほうがいい、
ということになってます。
端歩を取りに行った局面では、先手の右銀が4八にいるので、
3七、2五と進軍ルートがありますから受けない方がいいと思います。
後手の銀は6二にいますが、
こちらは7三に後手の桂馬がいるので進軍ルートが塞がっています。
このため後手が端歩を突いた場合は受ける可能性があります。

さて、塚田九段のとがめられないでしょうという問いかけに対し、
Puella αは後手玉の端歩を桂馬で取って攻撃を開始しました。

ここで昼食休憩に入り、両対局者ともうな重(松)にされたとのことです。
後ほど伊藤さんがTwitterで
昼はうな重(松)でした。ごはんが見えないくらいうなぎが一面覆っていました
とつぶやいていました。うらやましい…

また、桂馬を捨てて攻め始めたところを
ところでこの攻め大丈夫なのか…
とつぶやいていました。

桂馬を端に捨てて攻めるという方法は、
最近では 南芳一 vs 島朗 2012-01-13 順位戦とか、
局面が近い対局ですと、
南芳一 vs 青野照市 1996-02-29 銀河戦を先後反転すると近いかと思います。
ただ局面が近い下の対局はこの対局と違い、桂馬を捨てた側がより攻撃態勢を築いていて、
桂馬を得した側もより反撃体勢を整えています。
この対局ではお互い不十分な体勢のまま戦いになりました。
相手が反撃体勢を整える前に攻める、というのが、
塚田九段の問いかけに対するPuella αが出した答えになりました。
ここまで電王戦は4局ともコンピュータが攻める展開になりましたが、
先攻ということに対する評価がものすごく高いんだなあと思いました。

ゲストで立会人の神谷広志七段と観戦記を書かれる河口俊彦七段が登場。
神崎七段といえばNHK杯でのトラにゃん新手が話題になりました。

第62回NHK杯1回戦第7局 ▲永瀬拓矢五段対△神谷広志七段にて

-今期NHK杯戦の抱負をお願いします。

実は二日後の5月22日は、
私が非常に可愛がっていた「とらにゃん」の三回忌になりますので、
天国で見ているとらにゃんのためにも、恥ずかしい将棋は指せないと思っております。


河口俊彦七段は月下の棋士の監修や、
30年近く観戦記を書かれるなど著者として有名ですので、
観戦記が楽しみですね。

その後Ponanzaの開発者の山本一成さんが登場。
コンピュータは王様が堅くて自分が攻めてれば評価が高い、
攻めが切れても後は知らないっ、という感じだと述べてました。

中盤でPuella αが銀を打つ→金で取られる→馬で取り返す、
という指し手を選んだのですが、何故か馬で取り返すところで考え込み、
伊藤さんがTwitterでそこはすぐ指せよ…とぼやいていました。
この辺は不思議ですね。
銀を打った以上取り返さないと銀損だけ残るので、
人間だと何も考えずに取り返すところなのですが、
このあたりは線でなく点で読むコンピュータの特徴がでてました。
ただし序盤の塚田九段の問いかけに対する答えの手順は、
線になっているように感じました。

解説の木村八段と聞き手の安食女流のおやつはモンブランとシュークリーム。
安食女流はおやつめがけて走っていったということで、
とてもおいしそうな写真でした。

さて、弱点があるのならば突きます。勝たなければいけない対局なので。
と述べていた塚田九段は、作ったと金を5段目まで戻してから、
露骨に入玉を目指しました。
かなり駒損しながらの入玉なので点数が足りなくなりそうなのですが、
弱点とされる入玉将棋でどうPuella αが指すのかがポイントになりました。

ただ駒損しながらで、傍目から見てもつらい局面です。
木村八段がやけくそ気味に解説していて場を持たせていましたが、
解説名人でもこれはつらいか。
ただ、いつもと違って点数を稼ぐための手の解説になり、
そこでもプロはやっぱり違うんだなあと思いました。

ここで窪田義行六段が前回に引き続き登場。
エレガントな駒運びにコメントが湧いていました。
また、コンピュータがどのタイミングで入玉を目指すのか、
ということがポイントであると述べられていました。
相手の王様を詰ますゲームから自分の王様を逃がすゲームに切り替わる瞬間を、
Puella αがどう判断するのかということが焦点になりました。
この状況は普通だと会場も放送もお通夜ですが、
笑いが起きているのはさすが木村八段ですね。
現役のベテラン棋士が、勝つためとはいえこういう将棋を指せるというのは、
すごいなあと思いました。
これを勝つとタイトルだとか、トーナメントで上にいけるとか、
そういうわけではないですからねえ。 

ここで持将棋について説明しますと、
王様が0点、飛車と角が5点、他の駒が1点で、
この対局では双方が24点以上あると引き分け、無ければ負けです。
塚田九段が入玉を目指してからは、最大で24点までに9点ほど足りない状態でした。
そのために塚田九段がPuella αに入玉させないように曲線的に迫っていきましたが、
Puella αが入玉を目指して勝負あり。
と思いきや他の駒を逃がすという発想は無かったようで、
入玉後に目標を失ったPuella αがと金製造機になり、
その間に塚田九段が駒を回収して点差を狭め、会場も生放送も大盛り上がり。
とうとう根性で24点まで点数を回復し、持将棋が成立しました。
持将棋の提案のときに双方が駒を数える姿がすごい絵柄だったです。

対局後のインタビューで、 「投了は考えなかったのか?」との質問に、
塚田九段が泣いていたのが印象的でした。
疲れを知らないコンピュータに根性で引き分けまでもっていきましたから。
途中で飛車も角も取られた状況から指し続けるのは、
とても辛い時間だったと思います。
ただコンピュータを昔の谷川浩司みたいだと塚田九段が述べたことは、
最大級の賛辞じゃないでしょうか。コンピュータは本当に強い。

ニコニコ生放送
来場者:372,759
コメント:633,566

解説名人の木村八段につられてコメントされる方も多かったと思います。

▲76歩 △34歩 ▲26歩 △44歩 ▲48銀 △42銀 ▲56歩 △52金右▲68銀 △62銀
▲78金 △54歩 ▲69玉 △32金 ▲77銀 △41玉 ▲79角 △33銀 ▲58金 △31角
▲66歩 △74歩 ▲36歩 △43金右▲67金右△72飛 ▲46角 △73桂 ▲79玉 △42角
▲88玉 △31玉 ▲16歩 △22玉 ▲15歩 △53銀 ▲37桂 △64銀 ▲25桂 △24銀
▲13桂不成△同銀▲25歩 △45歩 ▲37角 △84歩 ▲14歩 △同銀 ▲同香 △同香
▲83銀 △71飛 ▲26角 △31飛 ▲74銀成△16歩 ▲29飛 △17歩成▲46歩 △16と
▲62角成△85桂 ▲64成銀△同歩 ▲44銀 △同金 ▲同馬 △33銀 ▲54馬 △43銀
▲63馬 △26香 ▲59飛 △15と ▲41金 △13玉 ▲31金 △同金 ▲71飛 △25と
▲91飛成△24玉 ▲86銀 △17香成▲55香 △15玉 ▲53香成△32銀 ▲93龍 △27香成
▲84龍 △24銀 ▲42成香△同金 ▲85龍 △33桂 ▲45歩 △46香 ▲57銀 △47香成
▲64馬 △41金 ▲44桂 △36と ▲54角 △25桂 ▲32桂成△26玉 ▲41成桂△46歩
▲68銀 △37桂成▲63角成△48成桂▲62馬 △35歩 ▲79飛 △58成桂▲14銀 △69金
▲23銀成△25銀 ▲24成銀△16銀 ▲77玉 △28成香直▲95銀△79金 ▲同金 △39飛
▲86玉 △68成桂▲同金上△89飛成▲75玉 △57歩 ▲84玉 △58歩成▲93玉 △99龍
▲78金 △57と ▲82玉 △67と ▲同金 △27玉 ▲91玉 △69龍 ▲68金打△49龍
▲34歩 △58成香▲13歩 △47歩成▲33歩成△68成香▲同金 △59龍 ▲67金 △57と
▲86馬 △58龍 ▲77金 △67と ▲12歩成△77と ▲同馬 △56龍 ▲44歩 △52金
▲71馬 △62銀 ▲82馬 △71金 ▲92馬 △81金打▲同馬 △同金 ▲同龍 △47龍
▲86馬 △44龍 ▲34成銀△46龍 ▲64桂 △63金 ▲72桂成△66龍 ▲64歩 △同金
▲68香 △57龍 ▲64香 △53銀 ▲63香成△54銀 ▲64成香△45銀 ▲43歩 △77歩
▲75馬 △68龍 ▲42歩成△46銀 ▲86馬 △47と ▲44歩 △36歩 ▲22歩 △67龍
▲63歩 △78歩成▲43歩成△77と ▲85龍 △88歩 ▲21歩成△89歩成▲62歩成△88と引
▲54歩 △87と引▲75馬 △37歩成▲82歩 △18玉 ▲26金 △27銀成▲同金 △同と
まで230手で持将棋

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