将棋世界06年11月号より

将棋界は十年に一度の割り合いで天才が現れる。みなさんご存知だろうか。
名を挙げれば、加藤一二三、米長邦雄と中原誠、谷川浩司、羽生善治である。
その流れからすると、羽生が四段でデビューしてから約九年。
そろそろ大天才が現れる頃だと思っていた。
歴史は誤らない。ちゃんと天才が現れたのである。
渡邊明君といい、昨年奨励会に6級で入った。そして半年あまりたった今は、すでに2級である。
年は小学校五年で十歳。<中略>
用事にかこつけ、銀座に出て、「萬久満」に寄ると、中原、佐藤(義)、小倉の面々がいた。
結局話し込んで、帰りは午前様になってしまったが、そこで例の渡邊少年の話をすると、
中原さんは「ほう」と眼を輝かせ「その子に羽生君はやられるんだ」すかさず言った。
こういう一言は書き留めておく値打ちがある。

渡辺明竜王はその風貌からネットでは魔太郎とも呼ばれています。
本人曰く「初めて見ましたが、似てる・・・くっ」
2003年4月からネット上で「若手棋士の日記」、2005年から今の渡辺明ブログを書いていて、
ファンとの交流や普及に熱心な方です。
将棋ソフト「ボナンザ」と公開対局された棋士としても有名ですね。
思ったことを率直に話すタイプなので物議をかもすこともありますが、
負けた対局でも翌日には更新して解説してくれる男前な人です。

将棋に関して言えば現代の若者風の大変合理的な将棋です。
本ブログのはじめにでも取り上げた、
第60期王座戦五番勝負の第2局を、次のように振り返っています。


将棋世界12年11月号より
 
「少し指せると思っていたので、
盤上に角を手放すよりも9筋だけを収めてしまうほうが局面を考えやすい(複雑にならない)
と判断して▲9六香と指しましたが、直後の△9五歩を見落としました。
▲9六香以外の候補手との比較に時間を使ってしまい、
以降の考察にほとんど時間を割いてなかったのがまずかったです」
「コンピュータ将棋の形勢判断でいえば、先手はプラス50点くらいでしょう。
それが▲9六香と指した瞬間にマイナス100点に転落したという感じだと思います」

将棋は自分が有利な時は局面を単純化させてミスを防ぎ、
不利なときは複雑化させて相手のミスを誘うというのが勝つためのセオリーです。
渡辺明竜王はコンピュータ将棋で50点というほんの僅かな差を嗅ぎ取る感覚と、
僅かな差で有利だと言っている感覚を信頼できる自信、
感覚が出した答えをセオリーに乗せて指し手を探す合理主義的なところを併せ持つ棋士です。
敗因を時間の割き方と考えるあたりにもらしさが出ていますね。

今年の3月23日から4月20日にかけて、
将棋のプロ棋士とコンピュータが対戦する電王戦が開催されます。
コンピュータと初めて公開対局で対戦した渡辺明竜王は、
一週間ほど前から数百局ボナンザと対戦したと言っています。
当時のコンピュータよりも今のほうが強いですし、
特にGPS将棋は東京大学のコンピュータを約670台ほど稼動させて挑むようですので、
対戦するプロ棋士の方は相当な準備をして挑むことになりそうです。


渡辺明竜王 「明日対局」巻頭インタビューより
 
―――もし人間が負けたら、どうなるのでしょうか。
「わかりませんが、人間が降参するまで行くとも考えにくいです。
例えば今の僕の力でどうやっても勝てない存在はちょっと想像がつきません。
互角なら分かりますけど。」


渡辺明竜王らしい自信に満ちたコメントですね。
がんばれ!プロ棋士!