※神戸学校での講演から一部抜粋

将棋は勝負なのですが、それだけではありません。
ひとりでできるものではなく、ふたりで対局する、
ふたりでよい作品を創り上げていくという芸術家的な部分もあると思います。
また、将棋の心理を追求していくという研究者の部分も必要だと思います。
「三つの顔」というのは「勝負師と研究者と芸術家」。
この3つの要素が棋士には必要ではないかと最近思うようになりました。 
昔はデータというのがほとんどありませんでした。
東京の棋士がどういうふうに指しているのか、大阪ではまったくわからない、
盤の前に向かってからが勝負でした。
だから、昔、棋士は勝負師だったと思うんです。
最近は、情報化社会になり、研究者の部分がかなり占めてきていると思います。 
研究者の部分が強すぎると自分の研究、
情報などわかっている部分だけで勝負しようということになってしまって、
未知の世界に踏み出す勇気がなかなか持てないのではないかと思います。
また芸術家の部分が強すぎると、自分の思い通りに進んでいるときはいいけど、
ちょっとミスをしたり構想が破綻してしまったときに、
嫌気がさして、ぽっきり折れてしまうかも……。
また、勝負師の部分が強すぎると、先の勝負にだけ固執してしまい、
次の相手とだけ勝てばいいんだということになると、自分自身のレベルアップができない。
この「三つの顔」をバランスよく持つのが棋士としてはいいのではないかと思います。
普段は研究者、対局の序盤は芸術家の部分が必要で、
終盤は勝負師に徹するということが自然にできる人が
トップを長くやっていけるのではないでしょうか。 


上記は谷川浩司九段の講演ですが、
谷川先生自身は芸術家の色合いが強い棋士だと思います。
谷川先生といえば、終盤であっというまに相手玉を寄せきってしまうことから光速流と呼ばれ、
終盤のスピード感覚を将棋に持ち込み寄せの感覚を変えた人と言われています。

将棋世界2012年11月号
「福崎節」で語る谷川将棋と羽生将棋

谷川さんは僕が挑戦者になったのを、とても喜んでくれたんですよ。
全局を通して、すごく機嫌がよかった。
前夜祭とかあるでしょう。お酒飲んで、何回かカラオケにつき合ってくれた。
僕は、いつもどおり歌ったんですが、あとで聞いたら、谷川さんはタイトル戦の前に、
カラオケにいくひとじゃないいうんですね。
僕はタイトル戦二回目でしたが、棋戦によって、しきたりも雰囲気も違う。
谷川さんはタイトル戦の常連でしたから、いろいろと気づかってくれたんでしょうね。
すごく親切でした。
<中略>
谷川さんの終盤は、ドラマを求めるんですよ。一刀のもとに切り捨てるのが好きでね。
<中略>
ふつうの手じゃダメなんで、かなわぬ恋を実現させるようなところがあるんです。
だれでもするような恋じゃないから、危ない目にも遭う。
だから、ファンの方もワクワクするんですね。


本ブログでも紹介しましたが、谷川先生の光速の寄せは見ていてとても楽しいです。